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「中空の彫刻」読後感
「中空の彫刻」(廣田治子著 三元社)を読み終えました。私にとっては大変面白く、また初めて知ることも多い内容が盛り込まれていた書籍で、興味関心の坩堝といっても過言ではありませんでした。ゴーギャンは後期印象派から象徴主義に至った画家として近代美術史に名を残しています。私の理解はそこまでで自分の知識の乏しさを恥じましたが、私が現在夢中で取り組んでいる陶彫は、ゴーギャンがその先駆けとして当時の時代背景もあって実験的に陶彫制作を行っていたことが私には衝撃的でした。ゴーギャンに関しては彼の著作「ノア・ノア」や「オヴィリ」を私は読んでいます。とりわけ私は「オヴィリ」(岡谷公二訳 みすず書房)を熱心に読んだ記憶があります。また映画「ゴーギャン タヒチ 楽園の旅」も見ました。学生時代、私は木版画に取り組んでいた頃にゴーギャンの木版画を知り、プリミティヴな魅力に惹かれ、ドイツ表現派の先駆者という位置づけをしていましたが、本書によって彫刻の分野でもその革新性が謳われていて、”オブジェ=彫刻”へ向かう20世紀の立体造形の扉を開いたことが書かれていて、ピカソを初めとする次世代への影響があったことに驚きを隠せませんでした。著者のあとがきにこんな文章がありました。「私は、ゴーギャンの畢生の大作《オヴィリ》をロマン主義の作品に関連付け、その一方でアフリカやオセアニアの神像との共通性も見いだし、さらにこれを20世紀彫刻の先駆けとするのである。このように、この驚くべき大胆な作品が伝統の中から生み出され、時代を大きく先取りする革新性を秘めているということ、これは全篇を通じたテーマであった。また、ゴーギャンの特異な作品群が、実は同時代の芸術家たちと問題意識を共有していたということは驚くべきことのようではあるが、私はアカデミックな彫刻家オーベからアヴィランドのアトリエの陶芸家たち、カリエスからロダンまで、さまざまな芸術家および作品との関わりの中から、ゴーギャンの同時代性をあぶりだそうとした。」本書は博士論文としてパリ第一大学に受理されたものに大幅に加筆されたもので、私にとっては気骨のある論考で常に自分の感性に刺激を与え続けてくれた貴重な書籍だったと言えます。と同時に自分が作っている陶彫という世界に一石を投じてくれた重要なものでもありました。