Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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「身体と空間」について
「彫刻の歴史」(A・ゴームリー M・ゲイフォード共著 東京書籍)は彫刻家と美術評論家の対話を通して、彫刻の歴史について語っている書籍です。全体で18の項目があり、今日は1番目の「身体と空間」について、留意した台詞を取り上げます。「先史時代の人々の芸術が残された洞窟を訪れるとき、手の抜き型にせよ、掌に顔料を塗り押しつけた手形にせよ、そこで最初に残された印は、身体をなんらかのかたちで直接壁に転写したものだ、としか考えられない。プリニウスの『博物誌』には、コリント人の娘がやがて戦地に旅立つ恋人の影の輪郭を壁になぞったという話が出てきて、それがなにかのかたちを再現した芸術の起源だとされている。この逸話は、ドローイング(線描画)の発端だけでなく、立体的な造形の発端にとっても、非常に根源的な考え方を含んでいる。というのも彼女が描いた輪郭線に沿って、彼女の父親〔陶工のブタデス〕が粘土でレリーフ(浮き彫り)をつくって焼いたからだ。」(A・ゴームリー)「そうしてみると、やはり人類最古の芸術家は女性だったのかもしれませんね。一方でほぼ間違いないのは、女性たちはまた、数多くの芸術にとって重要な主題であったことです。」(M・ゲイフォード)さらに芸術の大事な要素とも言うべき虚構についての言及がありました。「想像力ーつまり、なにごとか実際に起こっていないような事態を受け止めることーこそ、私たち『知恵ある』者の最大の能力なのかもしれません。ハラリ(歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ)の議論によれば、私たちとそれにごく近い霊長類を分けるのは進化する能力、そして集団で同じ虚構を信じられる能力です。彼はとくに貨幣と法律の例を挙げていますが、これはどちらも『もの』ではありません。物理的な現れかたをすることはあるかもしれませんけれど。~略~具象的な絵画や彫刻というのもまた虚構、つまり現実にそこにない事物を表したものです。」(M・ゲイフォード)芸術をする行為は人間の証であり、またそうした能力を持っているからこそ成し得た進化と言えます。今回はここまでにします。