Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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「時間と死の定め」について
「彫刻の歴史」(A・ゴームリー M・ゲイフォード共著 東京書籍)は彫刻家と美術評論家の対話を通して、彫刻の歴史について語っている書籍です。全体で18の項目があり、今日は12番目の「時間と死の定め」について、留意した台詞を取り上げます。「僕にとって彫刻というものは時間をとどめておく企てなんだ。僕らは空間のなかに浸っていると同時に、時間のなかにも浸っている。そして時間そのものが彫刻をかたちづくる。彫刻はじっと動かないでいることによって、なんらかのかたちで空間と時間の両者を蝶番でつなぎとめることができるんだ。~略~自然環境が継続的に彫刻のよさを引き出すように働きかける、という考えが僕は気に入っているよ。ロダンが所有していたヘラクレスはまさにそれがよくわかる例だ。表面が磨滅したことで作品の体勢が伝わってくる。石から掘り出された物体としての状態が、時間の作用によって自然の力と再び統合されているんだ。そして作品の再現的な側面は、エントロピーのなりゆきの犠牲となっている。これが『わびさび』という日本の思想であり、人間の手による仕事が自然や時間の営みと関わりを持つことができるということなんだ。」(A・ゴームリー)「葬送のための碑はたいていの場合遺族が制作を依頼します。そうやって悲痛な思いを詰め込み、長いあいだとどめておく碑ができるのです。わが子の死を悼む親の気持ちを表現した彫刻で、たぶんもっとも痛切なのは、ケーテ・コルヴィッツによる次男ペーターのための碑でしょう。青年は第一次世界大戦で戦死したのです。1914年、前線に到着してわずか数日後のことでした。これは悲痛に打ちひしがれる母親の委嘱による作品というだけでなく、恐ろしいまでの心痛に対して芸術家自身が向き合った結果でもあります。彼女が自分の気持ちを表現できる形式を見つけるまでに、15年以上の年月がかかりました。この像でコルヴィッツと彼女の夫はともに跪き、ベルギーの戦没者墓地を見遣っています。息子の墓はそこにあるのです。」(M・ゲイフォード)今回はここまでにします。