Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

note

「襞の下の身体」について
「彫刻の歴史」(A・ゴームリー M・ゲイフォード共著 東京書籍)は彫刻家と美術評論家の対話を通して、彫刻の歴史について語っている書籍です。全体で18の項目があり、今日は13番目の「襞の下の身体」について、留意した台詞を取り上げます。「具象彫刻を貫くもうひとつのテーマに解剖学がある。それは文字通り、皮膚を剥ぎ取って、その下の肉体を見つめ、部分と全体の関係を見極めるものだ。言うまでもなく解剖学は医者にとって不可欠な学問だったけれど、15世紀以降は彫刻家として成功するために必須の科学になった。実際、解剖学を知らなければ彫刻などできない、というひとつの強迫観念があった。それは、説得力を持った身体の表現にするためには、身体の内部を探求しなければならないという考え方だ。つまり身体の仕組みを理解して、わからないことがなくなるまで腑分けするということだね。」(A・ゴームリー)実際に40年前私が通っていたウィーン国立美術アカデミーには解剖学の講義があり、私は医大で受講していました。今も当時私が描いたデッサンが手元にあります。日本の美術系の学校にはありませんでした。「実際に死体を切って解剖した最初の芸術家のひとりとしては、レオナルド・ダ・ヴィンチが知られていますね。500年前の体の解剖というのはー化学的な防腐剤も簡便な冷蔵技術もまだない時代ですからー不潔で、臭いもひどい作業だったに違いありません。ところがこのダンディな紳士にして宮廷人、さらに至上の感受性の持ち主だった画家は、それでも自ら腐肉を切り裂き、鋸を引いて骨を断つことにこだわったのです。」(M・ゲイフォード)「レオナルドの抱いていた関心というのは科学者としてのものだった。つまり、彼は物事の仕組みを知りたがっていたんだ。彼は自然を見つめるときでさえ、そのシステムを見つけようとする人物で、相互の接続性を生み出すすべての事物に興味を持っていた。レオナルドの素描を愛さないわけにはいかないね。それらの素描は彼の発見と同時に、発明にも貢献したわけだからなおさらのことだ。」(A・ゴームリー)「レオナルドは子宮や、肺の内部で気管が複雑に枝分かれする様子を示しました。それを見ると人体とはなんて魅力的で、緻密な物体なんだ!と思います。一方ミケランジェロも同じように解剖に長い時間を費やしましたが、医学的なことにはまったく関心を示しませんでした。そしてその最終的な結果ーつまり彼の芸術ーも科学的な方法による正確さからは、まったくかけはなれたものでした。」(M・ゲイフォード)「彼の作品とレオナルドの解剖の素描との違いがそれを物語っているね。ミケランジェロは生身の人間を描いたときに、創意工夫によってすっかりそれをつくり変え、またそこに感情移入していた。」(A・ゴームリー)今回はここまでにします。