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「行為と出来事」について
「彫刻の歴史」(A・ゴームリー M・ゲイフォード共著 東京書籍)は彫刻家と美術評論家の対話を通して、彫刻の歴史について語っている書籍です。全体で18の項目があり、今日は14番目の「行為と出来事」について、留意した台詞を取り上げます。「ヨーゼフ・ボイスというのは、自分自身を癒し、そしてまたものをつくることで他者を癒していると思い込んでいた、トラウマ(心的外傷)を抱えた男だったんだと思う。その癒しの過程で、一度ばらばらになってしまったものをまた編み上げた。写真でしか見たことのない人でも、ボイスの顔というのはどこか心に引っかかるものがある。イデオロギーの対立によって崩壊した世界を目の当たりにし、第二次世界大戦のトラウマを経て、眼に見えるものよりもさらに深い所にある真実の源を見つけようと欲した人物。それがボイスなんだ。」(A・ゴームリー)「彼がやった一連の不思議な物事は、たしかにひとつの考え方を提示しています。つまりそこからはたしかにわずかばかりの削られた石だったり鋳造された金属の塊のような成果が得られているとしても、それを含め、芸術とはすべて、まずなによりも行為の産物なのだということを思い出させてくれるのです。アトリエとはある種の劇場であり、そこで芸術家はパフォーマンスを行ない、ということはそこではその主題もまたパフォーマンスなのでしょう。」(M・ゲイフォード)「ルーチョ・フォンタナの『空間概念』の場合は、出来事やパフォーマンスが物体になったり、物体のなかで出来事が行なわれたりしている。信じられないほど豊かな発想だよね。」(A・ゴームリー)「フォンタナの『切り込み』も、絵画とは別のなにかとして議論できるかもしれませんーその基本的な構成要素は絵具と画布ですが。つまり、ごく薄い彫刻としてです。もちろんこれはミケランジェロやブランクーシが理解するところの彫刻ではありません。量感とではなく、自由と関わるーつまりなにもない空間それ自体に、切り込んでゆくものなのですから。」(M・ゲイフォード)「こうした展開を踏まえるとジャコメッティという彫刻家は、人間の条件というものを彫刻でつくろうとした、ヨーロッパの人文主義思想の最後のひとあがきだったんだろうね。そしてイヴ・クラインが概念主義の幕を開けて、物体ではなく出来事のほうが重要だという考え方を実際に示したんだ。」(A・ゴームリー)今回はここまでにします。