Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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「とびきり静かな場所」
昨日の朝日新聞「折々のことば」に「孤独でいるために、まわりに人を必要とする」という池内紀氏の言葉が掲載されていました。「『とびきり静かな場所』があってこそウィーンは音楽の都なのだと、ドイツ文学者は言う。カフェがその一つ。孤独にふけるのにうってつけの場所なのだと。『心やさしい孤独家』は、人々が無名のまま隣りあうこの場所でそっとおのれを解く。群衆の中に埋もれるかのように。随想『孤独家にぴったりのウィーンのカフェ』(中央公論新社編『世界カフェ紀行』所収)から。」(鷲田精一著)20代の頃、ウィーンで暮らしたことがある私はこの言葉に反応してしまいました。ウィーンにある典型的なカフェは各テーブルに新聞があり、老紳士淑女が新聞を開いて、ゆったりとメランジュ(ウィーン風コーヒー)を味わっている光景でした。そこでは静かに時間が流れていたように感じました。当時の美術学校の仲間はそんな型に嵌った瀟洒な雰囲気が嫌いで、メンザ(学生食堂)で騒いでいましたが、それでも私が帰国した時に気になった日本のファミリーレストランの喧騒に比べれば、大分静かなものでした。ウィーンのカフェで味わう静かなる孤独感は、心の余裕が齎すものかもしれないと思いつつ、私が時折感じていた人混みの中の寂寥感とはニュアンスが異なるものでしょう。周囲に人の姿はあるけれど、適度の距離を保ち、お互いを干渉しない状況は、時に心地よい雰囲気を作ります。その微妙な立ち位置が新しい発想を育むと私は考えています。人はそれぞれの関係性の中で生きていくものですが、その連鎖をほんの少々断ち切って、心の余裕を持つことが快適に生きていく上で必要なことなのだろうと思います。「とびきり静かな場所」は私にとっては工房です。勿論制作する上での機械音がありますが、心は平穏を保っているので、まさに内面としての「とびきり静かな場所」なのです。