Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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上野の「マティス展」
昨日、上野にある東京都美術館で開催されている「マティス展」に行ってきました。平日で予約したにも関わらず入場口に列ができていて、マティスの人気の高さに驚きました。アンリ・マティスは野獣派(フォーヴィズム)の画家と言われています。図録にマティスの言葉が掲載されていました。「フォーヴィズムの絵は、複数の色彩によってかたちづくられた光り輝く塊であって、ありうべきひとつの空間を精神に向けて(私の感じでは、音楽でいう和音に似た仕方で)かたちづくる。創り出された空間は、アパルトマンの一室のように空っぽだったりもするが、とにかく空間が創り出されてはいるわけだ」。マティスは写実という伝統的な手法ではなく現実を再創造していると私は感じています。「マティスが絵画をめぐって大きな決断を下すとき、それは必ず、現実に存在するなんらかの土地に立脚している。つまりそうした決断は、物理的空間の中の、ある特定の場に関わる。マティスがたまたま一時的に住むことになった土地だったりもするが、そもそも彼がその土地を選んだのは、新たな刺激をもたらしてくれそうだと、直観的に期待したからにほかならない。」(オレリー・ヴェルディエ著)マティスの芸術家としての生涯の中で、持ち前の決断に優れた面を発揮したのは、晩年の切り紙絵ではないかと私には思われるのです。「1941年、マティスは手術でからくも一命をとりとめ、本人いわく『奇跡的生還』を遂げる。彼がふたたび切り紙絵技法を取り上げることを思いついたのは、こうして自分が生きながらえた事実に励まされ、新たな活力に満たされていたときであった。~略~切り抜くというこのただひとつの動作のうちに、マティスはペインティング、デッサン、彫刻を集約し、色彩と線描という2つの造形要素を統一する手立てとする。」と図録にあり、車椅子に乗りながら切り紙絵に挑んでいるマティスの写真は、あまりにも有名です。最晩年になっても斬新な構成と開放的な色彩を駆使して作られていく作品を、私は前から羨ましく感じていました。そこには感覚的な豊潤さに溢れた空間があり、マティスが自己表現の充実を謳歌しているように思えるからです。一緒に鑑賞していた家内は、マティスの表現における決定力の強さを実感していたようで、マティスの明快な作風を堪能していました。