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note

「牧場」について➂
「風土」(和辻哲郎著 岩波書店)の「第二章 三つの類型」の「3 牧場」について、気を留めた箇所を選びます。「3 牧場」はヨーロッパの気候風土を指し、結構長い論考であるため、3単元に分けていきます。今回は➂としてヨーロッパの風土が齎す文化形成が述べられていました。論考が多義にわたるため、美術に限って引用いたします。「ヨーロッパを北から南へ、すなわち日光の強まって行く方向へ旅した者は誰しも必ず感ずることと思うが、日光の力が強まるに従って人間の気質は漸次興奮的感情的になって行くのである。~略~ここに西欧の文物を古代ギリシャのそれから区別する最も顕著な特徴が見られる。シュペングラーの説いたようなアポロン的な心とファウスト的な心との区別は、確かに肯綮に当たると言ってよい。ギリシャのあくまでも明るい日光の下では、すべての物の形が彫刻的に際立ち、数限りなき個々のものがそれ自身をあらわに示している。~略~しかるに西欧の陰鬱な曇り日においては、すべての物は朦朧として輪郭を明らかにせず、かかる不分明な物を包む無限の空間がかえって強く己れを現わしてくる。それは同時にまた無限の深さへの指標である。そこに内面性への力強い沈潜がひき起こされる。主観性の強調や精神の力説はそこから出て来るのである。そこでギリシャの古代が静的、ユークリッド幾何学的、彫刻的、儀礼的であるのに対して、西欧の近代は動的、微積分学的、音楽的、意志的であると言われる。~略~またギリシャの美術を代表するものは第一にはギリシャ的明朗を結晶せしめた彫刻であるが、それに対して近代を代表するレムブラントの絵画は、まさに西欧の陰鬱を結晶せしめたものと言われ得るのである。」論考は学問や宗教に及んで、私の興味関心が尽きぬところですが、誌面の関係で割愛させていただきます。「人間が己れの存在の深い根を自覚してそれを客体的に表現するとき、その仕方はただに歴史的にのみならずまた風土的な限定せられている。かかる限定を持たない精神の自覚はかつて行なわれたことはなかった。ところでこの風土的限定は、ちょうどそれにおいて最も鋭く自覚の実現せられ得る優越点を提供するのである。~略~ちょうどこのように、牧場的風土においては理性の光が最もよく輝きいで、モンスーン風土においては感情的洗練が最もよく自覚せられる。それならば我々は、音楽家を通じて音楽を己れのものとし、運動家を通じて競技を体験し得るように、理性の光の最もよく輝くところから己れの理性の開発を学び、感情的洗練の最もよく実現せられるところから己れの感情の洗練を習うべきではなかろうか。」今回はここまでにします。