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「カラヴァッジョの影響と批評史 」について
「カラヴァッジョ」(宮下規久朗著 名古屋大学出版会)の第1章「生涯と批評」の中の「2 カラヴァッジョの影響と批評史 」の気になった箇所を取り上げます。「殺人を犯したカラヴァッジョは、犯罪者にして天才というロマンチックな芸術家イメージを形成し、多くの小説や劇、映画、バレエにまでなり、それらによる脚色とあいまってカラヴァッジョの一般的な人気を高めた。~略~20世紀の美意識に好まれた、精神を病んだ凶暴な芸術家、呪われた画家の代表としてカラヴァッジョの名が喧伝されるようになったのである。その面を強調するあまり、一般のレベルに限ってのことであるが、《ユディットとホロフェルネス》に代表されるカラヴァッジョ作品の残虐描写や衝撃性、あるいは教会に受け取りを拒否された《聖母の死》のような反社会性や偶像破壊的な側面ばかりが注目され、カラヴァッジョの本質というべき宗教性が軽視されるようになったきらいがあるだろう。」カラヴァッジョ研究が進む現代にあっては、多面的な要素が加わっているようです。「現在の美術史では~略~カラヴァッジョは単に伝統に反した暴力的な写実主義者であっただけでなく、当時の反宗教改革運動の有力な推進者であり、北イタリアの写実主義の伝統をローマの古典主義と結合させてモニュメンタルな様式を創出したという位置づけがなされている。~略~カラヴァッジョの魅力は、暴力的で衝撃的な作品のもっている力だけなく、~略~『追放者、無法者、殺人者のカラヴァッジョが、深く道徳的で宗教的な絵の画家であったという悲劇的なパラドックス』にあるといってよいだろう。~略~『カラヴァッジョの奇蹟は、かくも無軌道な人格が絵画技術を習得し、少なからぬ傑作を生み出したことにある』としている。血と暴力に彩られた破滅的な生涯をおくりながら、その作品の深い精神性や宗教性が時代を越えて現代人を打つという矛盾が、この画家への興味をかきたててやまないのは否定しがたいのである。」今回はここまでにします。