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映画「PERFECT DAY」雑感
昨晩、家内と映画「PERFECT DAY」を観てきました。「第76回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞 役所広司」というニュースが流れたので、ベテラン俳優の演技に期待してワクワクしながら映画を観ていました。本作は東京のトイレ清掃員の日常を描いたものでした。図録によると「THE TOKYO TOILETとは、渋谷区のトイレをリノベーションし、今までの公衆トイレのイメージを刷新する柳井康治が生み出したプロジェクト。この新しいトイレには専門の清掃員がいる。その清掃員を主人公にした短編映画をつくろう。そんな企画からすべては始まった。~略~『清掃の仕事をみていると、修業をする僧侶のように見える。他人のために生き、それをひたすら繰り返す。その姿はとても尊く美しい。その先に悟りのようなものがあるのかわからない。それを期待すらせずにただ黙々と日々を生きる。何か自分たちに足りない大切なものがそこにあるような気がする』」これは監督と共同脚本を作った髙﨑卓馬氏の言葉です。監督は「ベルリン・天使の詩」で有名なドイツの名匠ヴィム・ヴェンダース。映画はフィクションですが、そこにドキュメンタリーの要素が加わって、主人公の日常生活が描き出されていきます。平坦な日常の中に、主人公の眼に映る木漏れ日や出会う人々の軽い会釈などに、観客は麻薬のように誘われて、主人公の目線でその世界に入っていくのです。私はそこに演じている役者の姿ではなく、生きている人々の自然な状況を見取っていました。とりわけ役所広司という俳優は、完全にトイレ清掃員である初老の男が乗り移っていて、その表情や仕草では、あたかもドキュメンタリーとしか見えなかったのが、何とも凄かったなぁと振り返っています。俳優の中にはどんな役を演じてもその人らしさが出てしまう人がいます。スターであればそれを有難く思うファンもいるでしょうが、私はスターよりアクターとしての存在が断然好きなので、本作は大満足の出来栄えだったと感じました。