Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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「先行作例と晩年様式 」について
「カラヴァッジョ」(宮下規久朗著 名古屋大学出版会)の「第10章 失われた最後の大作 」の「3 先行作例と晩年様式 」の気になった箇所を取り上げます。「ヴァチカンの《キリストの埋葬》が、聖体拝受のミサを考慮した仰角視点で描かれていること、また、チェラージ礼拝堂の作品において、聖堂上方の窓から差し込む陽光が画面の光源、つまり聖パウロを回心させた神の光と一致していること、またシラクーサの《聖ルチアの埋葬》の前景の人物像の破格の大きさなども祭壇を下方から見上げる効果を考慮したためらしいこと、などからわかるように、《生誕》の構成と様式も、それが設置されるべき祭壇における効果を意図してのことだったと思われるのである。そして、1600年から二年の間に描かれたコンタレッリ礼拝堂の側壁の2点と、チェラージ礼拝堂の2点の作品のように、カラヴァッジョがしばしば近接する時期にまったく異なる画風を示すことがあるのは、設置される空間への画家の計算によって説明できるのではないだろうか。《羊飼いの礼拝》と《生誕》との相違も、そのような様式転換の例であったのではなかろうか。両作品は、主題解釈の点でも画家の晩年の傾向に一致している。マルタ時代以降の作品は、ほとんどが死のテーマを扱っているためか、画面に沈鬱で瞑想的な雰囲気が漂っている。驚愕と歓喜に満ちているはずの《ラザロの復活》や《羊飼いの礼拝》といった主題でさえ、悲嘆にくれたようなマグダラのマリアや聖母の表情が印象的である。《生誕》においても、聖母の放心したような表情からは、ピエタとのつながりを喚起するような暗い雰囲気が醸し出されている。民衆的な貧しさ、無力さが基調となっているのも、この時代のカラヴァッジョ作品の特色といってよい。」失われた《生誕》についてさまざまな角度や視点から考察してきましたが、本章も次回で最後の単元を迎えることになりました。