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「カラヴァッジョ」読後感
「カラヴァッジョ」(宮下規久朗著 名古屋大学出版会)を読み終えました。バロック期の西洋美術に疎かった私にとって、画家カラヴァッジョの存在は重要なものでした。カラヴァッジョ作品に導入されて、バロック期の宗教美術を知る手掛かりになったからです。本書を読むまでカラヴァッジョに関して私が知らなかったことが多く、とりわけ代表作品の丁寧な分析は役に立ちました。私の浅はかな知識としては、カラヴァッジョは不埒で横暴な性格で、どこでも乱闘事件を起こし、ローマでは殺人を犯して逃走した画家として、半ばゴシップ記事のように画家の歩みを理解していました。画業ではレンブラントの先達のような光と影のコントラストが激しい絵画を描いた画家として認知していたに過ぎません。その画家が宗教画を描いていたことに私は違和感を覚えていましたが、本書を通じてバロック絵画の新しい門扉を開いた世界観を知り、とくに光が差し込むところに神の存在を示唆した設定に、現代に通じる表現を見取りました。著者のあとがきにこんな文章がありました。「タイトルについてひとこと説明しておくと、副題の『聖性とヴィジョン』は、現実的でありながら聖なるものを表現するカラヴァッジョ芸術の本質を表そうとしたものである。第4章(幻視のリアリズム)で述べたように、カラヴァッジョの作品世界は、観者が画中の人物とともに見るヴィジョン(幻視)であるととらえられる。オッタヴィオ・パラヴィチーノ枢機卿は1603年にカラヴァッジョのことを『聖と俗の間にある』と評したが、カラヴァッジョ作品は俗に見えて俗ではなく、その現実的・触知的なヴィジョンはあくまでも高い聖性を備えているのである。」これがカラヴァッジョ作品の本質であり、私にも理解できた箇所でした。カラヴァッジョは享年38歳。いわゆる早世ですが、殺人事件による処刑ではなく、熱病による死亡だったようです。