2025.08.26
「芸術家列伝3」(ジョルジョ・ヴァザーリ著 田中英道・森雅彦訳)の「ミケランジェロ」について、幾つかに分けて気に留まった箇所をピックアップしていきますが、その前に私にとってミケランジェロはルネサンス美術の代名詞のような存在で、勿論私が20代の頃にフィレンツェやローマを訪ねて、本物に接してその存在感を胸に刻み込みました。本書の著者ヴァザーリもミケランジェロとの師弟関係があったらしく、とりわけ本章は細かいエピソードが散りばめられていて、読書が楽しくなります。まず若い時代のミケランジェロのエピソードを書き出します。「ミケランジェロの技量や個性は高まってゆき、ドメーニコは彼が少年とは思われぬ作品を作るのを見て驚嘆した。自分が抱えていた数多くの弟子たちを凌駕しているばかりか、往々、師匠である彼の制作した作品にも匹敵すると思えたのである。こんなことがあった。ドメーニコの下で学んでいる少年たちの一人が、彼の作品から、ペンで、着飾った数人の女性たちを写し取ったのだが、ミケランジェロはこの紙を取り上げると、より太いペンを用いて、新たな輪郭線で、まったくそうであらねばならないような様式に、完璧にこの女性たちの一人を描き直してしまった。二つの様式の相違や、自分の師匠の作品を修正するほどの気概を持つ、生気ある大胆な少年の資質や判断力は感嘆すべきことである。この素描は、今日、私のところにあり、記念品として保存している。ミケランジェロによる他の素描ともども、それを『素描集』に入れるため、グラナッチから手に入れたのである。ミケランジェロがローマにいた1550年に、私は、彼がそれを見たがっているので見せたところ、彼は謙遜して、年老いた今よりも少年だったときのほうが、こうした技術についてよく知っていたと語った。」またこんなこともあったようです。「彼は何カ月も、カルミネ寺でマザッチョの絵から素描を行なった。深い判断力をもってこれらの作品を模写したので、芸術家や他の連中はそれに驚き、名声ともども嫉妬をも増大させることになった。彼と仲がよく、冗談口をきいていたトㇽリジャーノは、ミケランジェロが彼よりも賞讃され、技量も上であるのを見て、嫉妬にかられ、無謀にも握りこぶしで彼の鼻を打ちすえた。鼻は不幸にも傷つけられ、つぶれてしまい、それ以後ずっと鼻にその跡をとどめることになったということである。」今回はここまでにします。