2026.05.04
先日、汐留にあるパナソニック汐留美術館に「ジョルジュ・ルオー アトリエの記憶」展を見に行きました。画家ルオーはキリスト教を主題とした油絵や版画を数多く残した巨匠ですが、私の若い頃はルオーの世界が理解出来なくて、何故ルオーの作風が認められているのか分からなかったのでした。厚塗りで技巧的でもなく、太い輪郭に平塗に近い筆致で描かれた風景や人物は、一見すると何が描かれているのか判別できないと思っていました。パナソニック汐留美術館にはルオーの常設展示があって、いろいろな企画展で訪れる度に、私はルオーの絵画を見ていました。自分の加齢のせいか、次第にルオーの世界が私の心に沁みわたってきて、絵の具の厚みと共に画家の内面性が重なり、蓄積された重厚な場面に惹かれていきました。私が学生の頃は絵画技巧の巧みさばかり目についていたので、ルオーを拒絶することさえあったのでした。ルオーの宗教観について図録にこんな語句がありました。「祈りの言葉を繰り返し唱えるかのようなルオーの瞑想的な制作姿勢の凝縮」とあり、まさに祈禱を伴い、寡黙に取り組んだ彼の姿勢の痕跡と言えます。本展の目玉は、制作の現場を再現した空間が提示されていて、ルオーの創作への息吹を感じることができました。図録より引用します。「200本を超える大小様々な筆、山のように積まれた油絵具のチューブ、パステルや木炭や墨やインク、液体画材用の数々のガラス瓶、多種多様なパレットナイフやスパチュラなどの道具、彩色のある額や裏打ち板、書き込みがされたカルトン(紙ばさみ)。こうした晩年のアトリエに残されている画材の豊富さと多様性は、複数の作品に手を加え続けたルオーが、様々な画材、技法等を自在に行き来していたことを物語る。また、画材ではないが、同じくアトリエに残る夥しい数のエボーシュ(画稿)は、彼の造形性や構想が最も純粋に現れた制作初期の痕跡であり、アトリエの中でもひときわ目を引く興味が尽きない作品群である。」(荻原敦子著)