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「芸術における精神的なもの」
1912年にロシア人画家カンディンスキーが著した「芸術における精神的なもの」は、2011年の現在からすれば100年も前に出版されたことになります。その中に「…容貌や身体の各部分が、芸術上の理由から置きかえられたり、デフォルメされたりすると、ひとはやはり純芸術的な問題のほかに、絵画的意図を妨げたり二義的な計算を押しつけたりする解剖学的な問題にぶつかる。ところがわれわれの場合だと(比較的抽象的な形態や純抽象形態を用いることによって)、非本質的なものは自然と脱けてなくなり、ただ本質的なものー芸術的な目標ーだけがのこっている。この一見気まぐれな、しかし実は厳格に規定することのできる可能性、形態転位の可能性こそは、純粋芸術創造の無限の系列が湧きでる源泉のひとつなのである。…」(西田秀穂著「カンディンスキー研究」美術出版社より抜粋)という一文があります。自分も学生時代に人体塑造をやっていて、解剖学上の正確な形態把握に努めてきましたが、その巧みさを学ぶことと、芸術的な本質を捉えることは違うと考えていました。正確な人体塑造が居並ぶ権威ある公募団体展に出かけた折、心に響く感動がなかったことで、創造行為とは何だろうと考え始めたのです。「芸術における精神的なもの」は100年も前から芸術創造の本質に迫ろうとしたもので、たかだか30年前の自分に照らし合わせると、この著書をもっと早く読むべきだったと思わないではいられません。近現代美術史を自分なりに振り返ることは現在でも有意義と考える所以です。