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ヨーロッパを懐かしむシュトレン
この時期になると、神奈川県川崎にある菓子店「マリアツェル」に出かけます。20代の頃、オーストリアのウィーンに暮らしていた自分は、日本人パティシエと仲良くなり、よく遊んでいました。彼は菓子修行でホテルに勤務、私は美術学校の学生だったため、よく私に食事を振舞ってくれました。当時私は収入があった彼を羨ましく思っていました。12月になるとウィーンの店ではシュトレンを売っていました。シュトレンはドイツ語で「坑道」という意味です。文字通りトンネル状をした菓子パンを指しますが、自分がウィーンから帰ってきた30数年前は、日本でのシュトレンの知名度はありませんでした。ドイツ語圏の国々ではクリスマスの時期になるとシュトレンを売り出すベーカリーが増えて、この季節の保存食として楽しんでいます。シュトレンはドイツのドレスデン発祥と言われていますが、1329年ナウムブルグの司祭へのクリスマスの贈り物が最古の記録としてあるようです。イエスのお包みにカタチを似せていることで、キリスト教絡みの行事にも使われています。ヨーロッパ以来の知り合いであるパティシエが経営する「マリアツェル」で、シュトレンをまとめて購入するのが、我が家の恒例行事になっていて、今年も多量に頂いてきました。彼が作るドイツ系菓子やシュトレンはヨーロッパに出回るものと比べても遜色はありません。寧ろ日本人に合った趣向を凝らせているので、シュトレンの美味しさは抜群です。ドライフルーツ等の材料を海外から仕入れていて、これで収益があるのかどうか疑わしいのですが、あまり商売に肩入れしない彼は、材料に比べて安価で菓子を売っているのです。それでも「マリアツェル」を始めた頃は、多忙を極めていて、本場ヨーロッパ仕込みの菓子は飛ぶように売れたようです。今年大量に仕入れてきたシュトレンは、長野県に住む彫刻家の師匠や山形県に住む画家の先輩、親戚の学者や声楽家に送っています。ヨーロッパに関わりがある人であれば懐かしさでいっぱいになるはずです。