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「中空の彫刻」を読み始める
「中空の彫刻」(廣田治子著 三元社)を読み始めました。本書は副題に「ポール・ゴーギャンの立体作品に関する研究」とあって、19世紀末に画家として生きたゴーギャンの立体作品にスポットを当てた研究論文です。テーマからして私の趣向に合う要素を孕んでいて、私は以前からゴーギャンのプリミティヴな木彫作品に注目してきました。本書は2部構成になっていて第一部は「19世紀における『画家=彫刻家』と『芸術家=職人』の登場」、第二部は「ゴーギャンの立体作品」です。本論に入る前に、ゴーギャンの立体作品が提起する問題について書かれた序論があります。その序論から気になった箇所を3つ拾ってみます。「彼が生前に高らかに宣言した『あらゆることを敢行する権利』から生み出された大胆な立体作品群は、たしかに20世紀芸術を予告する革新性をはらんでいた。彼は人間、もしくは人体をめぐってギリシャ時代以来生み出されてきた、彫刻と呼ばれる芸術形態の概念を揺さぶり、単に三次元表現にほかならないものを生み出したのである。」2つ目は「19世紀中、絵画においては彼以前にすでに多くの革新者が生まれていた。しかし彫刻では、ロダンでさえ伝統の桎梏から完全に自由ではなかった。彫刻に新風を吹き込もうとするゴーギャンの意欲は、より大胆で奇怪なものを作り上げていったのである。」3つ目は「彼の生み出した三次元作品はアール・ヌーヴォーにつながる装飾芸術復興運動、近代彫刻芸術の自律性の獲得、あるいはプリミティヴィスムなど、19世紀末から20世紀初頭にかけての芸術上のさまざまな問題と深く関わりながら、時代を先導していったと言っても過言ではないのである。」当時は後期印象派の時代で、旧態依然とした芸術様式から新しい概念が誕生してきた時代的な潮目があり、またペルーやメキシコ、日本などの文化も紹介され、画家たちが形態的霊感源をそれらエグゾティスムに求めたという背景もあります。本書は革新的な役割を果たした画家が、立体表現によっても20世紀以降の現代彫刻に繋がる画期的な表現をしていたことに着目し、その独自性を考察したものです。私は滞欧中に「プリミティヴ・クンスト(アート)」という分厚い書籍を手に入れています。そこにゴーギャンの立体作品がかなり多く掲載されていました。原始的な生命力は私の創作も刺激しています。私が自らの創作世界に悩んでいる時は、必ずと言っていいほどプリミティヴな作品を見ることにしています。私がアフリカの仮面を集めているのもそこに関係があります。