Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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「状況-マルティニーク島滞在」について
「中空の彫刻」(廣田治子著 三元社)の「第二部 ゴーギャンの立体作品」の中で、今日から「第3章 彫刻的陶器への発展と民衆的木彫の発見(1887末~1888末)」に入ります。今回は「1 状況-マルティニーク島滞在」をまとめます。ゴーギャンと言えば、タヒチ滞在で後世に残る作品の数々を生んだ芸術家として、近代美術史で知られている存在ですが、本書を読んでいくとタヒチに行く前に、さまざまな制作暦があり、革新性が評価されている絵画はもとより、陶器や彫刻でも大きな足跡を残していたことが分かりました。本書はとりわけ立体作品に着目した論文だけに、私は毎日本書を読んでいてその都度刺激を受けています。私がやっている陶彫は、既にゴーギャンが試みた表現のひとつだったことを改めて認識し、当時流行っていたパリの印象派を超えて象徴主義にまで辿り着いたゴーギャンの制作暦が、具体的に描かれていることにワクワク感がとまりません。この第3章から熱帯の島にゴーギャンが出かけていく状況が示されていて興味が尽きません。ゴーギャンはタヒチ渡航の前に、カリブ海の島を訪れていました。「1887年4月10日から11月13日まで、ゴーギャンはパナマおよびカリブ海のマルティニーク島への旅のためにパリを留守にした。」ゴーギャンが自らの作品世界を培うためには、原始的な生活を営む島での体験が必要だったと考えられます。「熱帯の島での最初の滞在は、病に苦しめられはしたものの、ゴーギャンに真の啓示をもたらせた。赤道直下の気候、豊醇な自然、そして黒人たちの逍遥するさまに接してゴーギャンは歓喜する。~略~こうして彼は、熱帯の自然とそこに暮らす人々のリズムを発見し、それは彼の絵画に新しい世界をもたらせた。そして《熱帯の植物》のように、装飾的画面の方向において、めざましい進展が得られたのである。」現在、私たちが接しているゴーギャンの代表作品はタヒチで描かれたものが多く、その独特な画面構成や色彩が、徐々に出来上がっていく過程を知って、熱帯の自然が彼に与えた大きな啓示を思わないではいられません。ただし、乾燥した肌寒いパリの気候とはまるで異なった熱帯地方の蒸し暑い空気は、彼の体調を蝕んだことも事実で、こんな文章もありました。「しかしマルティニークでの喜びも束の間、赤痢とマラリアに罹り、入院も余儀なくされ、その費用と薬代で滞在費は底をつき、8月末、帰国の算段を始めることとなる。」