Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

note

絵画性を求めて…
私の作品は陶彫による部品を複数配置する集合彫刻ですが、その配置を支える支持体は、厚板材を加工したものに砂マチエールを貼りつけています。そこに油絵の具を滲み込ませ、さらに絵の具を振り撒いたり、滴らせたりする技法を使った平面的処理を施しています。これはタシスムという絵画技法で、決して新しいものではなく1950年代アンフォルメル絵画が隆盛の頃に流行りました。タシスムとはフランス語で「染み、汚れ」を意味する「タッシュ」に由来します。これはオートマティスムの系譜に入るもので、無意識の無媒介的なところを絵画に取り入れたものと言えるでしょう。アメリカの画家のジャクソン・ポロックの創りだしたアクション・ペインティングがその顕著な例です。私の場合は、彫刻を作っている意識の中に、絵画性を取り入れ、立体と平面双方から自らの世界を創り出したいと考えていて、タシスム(染み)の効果を利用することにしたのです。絵画史を見れば、絵を描く行為は人類が洞窟に絵や文様を描き出した古代から続いていて、西欧では宗教の視覚化に成功した中世絵画や、遠近法を発明し写実性を求めた近代絵画、さらにリアルな現実の追求により、眼に見える情景を求めて画布を外へ持ち出した印象派、色彩と構成を自立させたキュビズムや抽象絵画に至っては、絵画を単なる視覚伝達のものではなく、造形理論に裏打ちされた思考する媒体に変えてきました。彫刻も絵画と同じ歩みが認められますが、やはり絵画の牽引力には及ばないと私は思っています。私が絵画性を求めるのには、自分がイメージする全てのものが絵画表現には内蔵されているような気がしているからです。平面表現に思索や哲学を投影する絵画には、現代にあってもまだまだ表現を模索しうる余地が残っているように思っています。