Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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新聞記事より「穏やかな視線 人間とは」
今日の朝日新聞夕刊に掲載されていた記事に目が留まりました。タイトルは「穏やかな視線 人間とは」とあって、近代ドイツを代表する彫刻家エルンスト・バルラッハの「うずくまる老女」の大判の写真がありました。先日見に行った東京六本木の国立新美術館で開催中の「ルートヴィヒ美術館展」に「うずくまる老女」が出品されていて、以前からバルラッハが好きだった私は、形態の隅々までじっくり堪能してきました。新聞記事の冒頭の文章を引用します。「ブロンズや大理石が好まれる近代彫刻において、中世ゴシック彫刻に影響を受け、当時廃れていた木彫を復活させた。」とあり、バルラッハは穏やかで朴訥な造形を作り続けていたようです。「バルラッハは1906年、弟を訪ねて第一次ロシア革命直後の南ロシアを旅する。芸術家としての方向性を模索していたこの頃に出会い衝撃を受けたのが、経済的政治的混迷の中で貧困と苦悩にあえぎながらも懸命に生き抜く人々の姿だ。すべての人間は苦悩する存在だとして、『人間』をテーマに生涯、その生命力と諦観が入り交じる表現を追求した。~略~ナチ政権が始まった33年、この老女像は作られた。果たして視線の先にあるものは。バルラッハは『屍の魔女』という別の名も与えている。」屍の魔女とは悲惨な時代を精一杯皮肉ったもので、私は深い宗教性を感じています。内面の強さが現れている「うずくまる老女」に私は暫し時間を忘れて見入ってしまいました。なお、この木彫は木材から直接彫られたものではなく、石膏で模型を作って、それをもとに造形されたようで、作り方は塑像に近いと言えます。いかにも西洋の造形方法で、これは日本の仏像作りとはまるで異なっていて興味深いものがあります。