Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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「樹木と生命」について
「彫刻の歴史」(A・ゴームリー M・ゲイフォード共著 東京書籍)は彫刻家と美術評論家の対話を通して、彫刻の歴史について語っている書籍です。全体で18の項目があり、今日は4番目の「樹木と生命」について、留意した台詞を取り上げます。「トーテム・ポールは、ほかの動物たちからの恩恵を受けながら生きてゆける能力が、人間のアイデンティティの主要な部分を占めるという文化を表現している。クジラや鮭などあらゆる動物の姿がそこに彫られているが、どちらも彼らの伝統に本来的に備わっているものだ。一族を守護する動物がいて味方の動物もいる。すべての狩猟民族がこうした考えを持っている。自分たちの養分とするために、捕獲した動物の命を奪うのだけれども、そこにはとても深い畏敬の念が込められている。そして生のどんな瞬間も、遥か昔の先祖たちとこれから生まれてくる子孫たちの魂とつながっている、という考え方がある。」(A・ゴームリー)現代彫刻も同じような生命を表現していると言えます。「ブランクーシはモダニズム彫刻最大の記念碑を何点か制作しましたが、どれも生命を主題にしています。ルーマニアのタルグ・ジウにある彼の最後の、そして最大の3作品を、順に歩いて見られるようにしたいと構想したのです。まず《無限柱》、つぎに《キスの門》ー30年前の最初の彫刻から発展したものー、そして最後に、そこから少し離れたところにある公園内の《沈黙のテーブル》という順に歩くのです。なかでも《キス》の後期ヴァージョンでは、ここでも人間の男性と女性だとはっきり識別できるカップルが、建築の支持材、つまり橋脚に変化しています。」(M・ゲイフォード)「ルーマニアの田舎の家の玄関には、大胆に彫られた敷居があることが多い。同じかたちを繰り返すように斧で木を削り出したもので、ジグザグや丸いかたちを使った力強い造形要素だ。ブランクーシの彫刻にもそれとよく似たかたちや規則性が見られる。《無限柱》は僕らがトーテム・ポールに見たような連続するということの意味を、改めて考えてみる試みだったのだと思う。」(A・ゴームリー)木を彫る行為に触れた箇所もありました。「ムーアは直彫りへ立ち戻ろうとする動きの一翼を担っていた。素材そのものを直接彫っていって、その素材に固有の特質を引き出そうとするやり方だ。これはロダンがやったように、小さな模型を最初につくってそれを石や青銅(またはその両方)で最終的な作品のサイズに拡大するという、彫刻界の慣習に代わるものだった。ポール・ゴーギャン、アメデオ・モディリアーニ、ジェイコブ・エプスタイン、ブランクーシは最初にこの方法の転換を推進した作家たちだ。それは、工業化社会の高まりと昔ながらの手触りへの願望とのあいだの緊張感をまとっている。」(A・ゴームリー)今回はここまでにします。