Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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自由美術展 師匠の作品について
今日の午前中は工房で陶彫制作に精を出して、午後から家内を誘って東京六本木の国立新美術館で開催中の「自由美術展」に行って来ました。私は大学で彫刻家の池田宗弘先生から人体塑造の手ほどきを受けていました。池田先生が自由美術協会の会員なので毎年招待状をいただいていて、彫刻作品を拝見しているのです。私が大学に入ったばかりの頃に、池田先生は現代日本美術展に猫の群像を配した「ああ!なんという生き方」と題した真鍮直付けによる大作を出されていました。当時彫刻を学び始めていた私は、量感を削り取られギリギリの生命感を宿した猫の姿に圧倒的な表現力を感じ取り、それから池田先生に教えを請うことになりました。師匠となった池田先生は決して私に甘くはなく、精神的葛藤に苛まれることも暫しありましたが、それでもこの人から何かを得ようと私は真摯に立ち向かっていきました。今回の出品作品は彫刻1点、木版画5点で構成された展示になっていて、「2027年前を思い出せ」という題名がついていました。その場のメールで池田先生に確認したところ、紀元前5年のエジプトで興った出来事から虐殺の歴史を辿り、現在のウクライナ侵攻に至るまでの悪魔の行為を戯画化したものであることが分かりました。池田ワールドは社会性をもった題材で知られ、時に風刺的なものを扱っています。19世紀のフランスの風刺版画家ドーミエの世界を立体に置き換えたものという解釈も出来ますが、作風はジャコメッティの応用版のようです。真鍮直付けのため彫刻は即興的な作りなので、ちょっぴり軽妙洒脱な雰囲気も漂います。それでも今回の展示で私が気づいたことは、いくら即興的でも彫刻にはある程度の象徴性が出てしまい、木版画のもつ直接的な主張には一歩引けを取る結果になってしまったことです。本当に池田先生が訴えたいことは木版画の方にあったように思います。実際に私は電話で本人にそう伝えました。先生も媒体には向き不向きがあるなぁとおっしゃっていましたので、私の感想を理解していただけたと思います。私としては現在83歳になる師匠が毎年美術展に作品を出していることで安心を得られることが嬉しいのです。長野県の山奥で一人で創作生活を送っている師匠を、岩手県で独居生活をしていた高村光太郎に重ねてしまうことが私にはあります。そろそろ麻績の工房エルミタを訪ねていかなくてはならないと思っているところです。