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北浦和の「戸谷成雄 彫刻」展
先日、埼玉県立近代美術館で開催している「戸谷成雄 彫刻」展に行ってきました。本展では、従来の彫刻的概念を十分に感じさせる圧倒的な素材に接して、私の心は和みました。現代アートはその考え方や視覚表現の多様性が目立ち、私は自分が空間を解釈する方法として選んだ彫刻が、時代が求めるものと乖離してしまっていると感じていたため、こうした彫刻らしい作品を見て感動すら覚えたのでした。塊を彫り刻むという行為が、私を捉えて離さないことを私自身がこの眼で確認できたことは本当に嬉しかったことでした。ただし、戸谷ワールドは勿論彫刻の復権ではあるけれど、古来からある木彫とは違い、まず材料ありきではなく、モノがそこに存在するということはどういうことかを改めて問うことから始めているように思います。展覧会場の初めの部屋にあった「POMPEIⅠ」というコンクリートの作品は、イタリアのポンペイ遺跡から発想されたもので、噴火の犠牲者たちに石膏を流しこんで雛型を残したことを、このような空洞における実在として作家が意識した結果、生まれた作品なのです。有名な「森」シリーズも複数ある木の柱をチェンソーで刻みながら、闇を抉るように実在としてそこに佇む空間を作っています。存在には雄型と雌型があると言わんばかりに凹凸を表現した世界観に、私は惹きつけられていきました。図録より引用いたします。「一般的に、戸谷成雄は1970年代の美術動向のなかで『解体された彫刻』を『再構築』した彫刻家であると定義される。にもかかわらず、今日目にすることが多いのは『森』を中心とする再構築後の作品であり、実作品をもとに再構築の過程を検証する機会はあまりなかった。在学中の同時代美術との邂逅から、イメージの出現までをたどって見えてきたのは、『彫刻』の回復に至るまでの単線的な道のりではなく、同時代美術の傾向と彫刻の発生、両者の間を行き来しながら慎重に作品を展開する奮闘の軌跡であった。むしろ、異質なものの間で生じる『ねじれ』を拙速に解消せず、ねじれたまま同居させる姿勢にこそ、この彫刻家の特性を見ることができるだろう。」(佐原しおり著)