Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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「クリムトの文様」について
「グスタフ・クリムトの世界」(海野弘 解説・監修 パイインターナショナル)は書籍の扉から読むことはせず、気になった箇所の頁を開き、部分的に読み込んでいます。私が20代の頃、ウィーンに5年間暮らしていて、グスタフ・クリムトのオリジナル作品を常時観に行ける環境にあったことを今更ながら幸福だったと感じています。当時は日本からやってきた観光客を美術館に案内していましたが、そのおかげで幾度となくクリムトの世界に接していました。とくに私はクリムトの黄金の女たちと呼ばれている絢爛豪華なシリーズが好きで、エロティックな女性の肢体に平面的な文様を描いた絵画は、その具象的表現より、それを覆い隠すように構成された抽象的な表現に魅了されていました。それは日本の染織にある文様のようで、絵画に持ち込まれたデザイン性が新しさを感じさせました。文中から関連した内容を拾います。「ウィーン工房のヨーゼフ・ホフマンは、チェッカーボード・ホフマンといわれたくらい、格子状のデザインを好んだ。それはクリムトの原型(アーキタイプ)でもあった。彼は四角から出発して、それを曲線で分割していくのだ。ウィーン工房のデザインは、アール・ヌーボーの曲線とアール・デコの直線の過渡期にあり、両者の巧みな使い分けによって見事な作品を生み出したのである。曲線と直線のバランスに役立ったのは、ジャポニスムの刺激であった。クリムトは四角いデザインを入れているが、日本の角印(かくいん。四角い印章)を模したものである。~略~四角と円を基調にしながら、クリムトはさまざまな文様を乱舞させる。肖像画においても人物とまわりの装飾のどちらを優先しているのかわからないほどだ。彼は19世紀末から発達した考古学的研究に刺激を受け、エジプトやギリシャの文様を吸収した。それは、三角や鷹の眼の象形文などに見られる。そして1900年前後に一挙に紹介されてくる日本の文様に新鮮な驚きを感じ、コレクションした。おそらく肖像画や装飾などにおいて、これまでいわれてきた以上の日本の影響があるだろう。」私がクリムトの世界で魅かれていた抽象的な構成要素は、日本から由来したものかもしれず、それらを見て懐かしさを感じていたとも言えます。クリムトの世界に琳派を見取っているのは私だけでしょうか。