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映画「TAR」雑感
昨日の夕方、家内を誘って横浜の中心街にあるミニシアターに米映画「TARター」を観に行ってきました。午前中は工房で個展の準備として梱包作業をやっていたのですが、時間的に余裕があると判断して、久しぶりに映画館に足を運びました。「TARター」は、世界最高峰のオーケストラであるベルリン・フィルに女性として初めて首席指揮者に任命されたリディア・ターの生きざまを描いた映画で、私は音楽にも興味関心があったため、ぜひ観たいと思っていたのでした。ただし、本作は音楽映画というより、音楽を通じてさまざまな人の思惑が交差する人間ドラマになっていました。物語として取り上げられたのは、通常では立身出世の物語が多い中で、本作はその逆でした。地位も名誉も勝ち得た主人公が、足元を掬われ、誹謗中傷もあって、次第に転落していく物語で、当然ハッピーエンドにはならない予感がありました。そうした崩壊の動機は、リディア・ターの妥協を許さない音楽家としての大胆さと繊細さ、ジェンターとしての私生活やら、直観に頼った楽団運営に時折現れていて、マイナスな要因が増すにつれ、映画はどんどんドラマティックになっていきました。私が注目したのは、リディア・ターを演じたケイト・ブランシェットで、彼女は映画全編を通じて出ずっぱりでした。主人公のプライベートの生活では、微妙に揺れ動く心理や不安を演じ、さらにオーケストラの前に立つと強靭になる音楽性の深さに、思わず引き込まれていきました。彼女の俳優としての技量は凄いものを感じさせ、指揮者としての表現力、楽器を弾くリアルさ、英語とドイツ語の使い分けに至るまで、観客を魅了するには十分な存在感を示していました。これは彼女の演技ありきで作られた映画であることを図録で知りました。一緒に行った家内は和楽器奏者なので、きっと関心は高いだろうと思っていましたが、叩き込まれるようなドラマに辟易していたようです。観終わった後、もっと娯楽を楽しめる映画が観たいと私に言っていました。