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六本木の「虫めづる日本の人々」展
昨日、東京六本木のサントリー美術館で開催されている「虫めづる日本の人々」展に行ってきました。私の陶彫作品に甲殻類が有する形態を参考に造形したものがあり、虫そのもののカタチは嫌いではありません。寧ろ古来から日本美術の中でどのように虫が扱われてきたのかに興味があり、本展は私の興味を満たしてくれました。虫は草花の中に存在する風情として捉えた作品が多く、日本人特有の情緒となっていました。図録の中で江戸時代に纏わる論考があったので引用いたします。「江戸時代に、行楽や売り物や表現媒体に虫の登場が多くなった理由は、三つ考えられる。一つは、花や鳥とともに虫も詠んだ『万葉集』以来の和歌が途絶えることなく受け継がれ、江戸時代ではさらにそれが『狂歌』『俳諧』という多様な展開をしたことである。~略~二つ目の理由は、江戸時代における中国文化の大量輸入と普及である。~略~江戸時代になって初めて、中国書籍の復刻版が日本に普及し、武士と庶民が自由に手にとるようになったのである。~略~三つ目の理由が、アムステルダムで刊行された書籍が日本に入ってきたことである。日本人は本草学よりさらに広い視野を持った『博物学』の書物に触れることになった。~略~江戸時代で最も美しい虫の絵は伊藤若冲の《動植綵絵》(1765年)と円山応挙の《百蝶図》(1775年)と喜多川歌麿の《画本虫撰》(1788年)であろう。~略~正確に描写されるようになった虫たちは博物図や絵画や版画のみならず、やがて着物に施される刺繡や染め、蒔絵や工芸品に現れた。櫛かんざし、きせるときせる筒、たばこ盆、たばこ入れの根付けと前金具、各種陶磁器、手箱、硯箱に表現されたのだった。」(田中優子著)美術作品の中に虫が表現されているのは、私には面白くて、虫の形態のデザイン化にも注目をしていました。私は写実的なものより多少象徴化された虫の作品が好きで、それが全体構成の一部になっているのを見ると、私自身の創作意欲を刺激するのです。展示作品の中で私は伊藤若冲の「菜蟲譜」が好きで、その植物と虫の織り成す世界が、いかにも現代風にデザインされているように感じました。葉形の虫食い穴ひとつ取ってみても、画家は優れた構成力を持っています。薄墨の中で、葛の葉で遊ぶ虫たちの楽園がいかにも楽しそうで、現代版キャラクターにも通じているように思いました。「菜蟲譜」は展覧会全体のポスターにもなっていて、現代に生きる私たちをキャッチする要素もあると考えました。