Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

note

棟方志功「鷺畷の柵」について
先日見に行った東京国立近代美術館で開催中の「棟方志功展」。回顧展としての代表作品が陳列する中で、いくつか自分の心に響いた作品がありました。有名な「二菩薩釈迦十大弟子」や「華狩頌」も久しぶりに眼前に登場したので、じっくり観させていただきましたが、本展で一番私が気になった作品は「鷺畷の柵」でした。この作品は1960年の作品で、青森県庁の知事室に飾られていたようです。図録によると当時の知事が「郷土の遠い遠い過去から連めんとつづいている風土と感情が、目の当たり そこにー深々と存在するのを感じるためであろうか」と書いています。棟方志功は青森県の出身で、郷里のねぶた祭りの豪放な雰囲気を作品に反映させていますが、国際的名声を得ても氏神を祀る土俗性を忘れることなく、一心不乱に己の表現するものに邁進していった稀有な芸術家であったと私は思っています。仏教の用語を散りばめた豊満な女体像を得意としていた作品群の中で、私は敢えて白黒版画の「鷺畷の柵」を選びました。この作品には何が描かれているか、ちょっと見ただけでは分からず、装飾が画面いっぱいに広がった世界がそこに存在しています。鳥形が繰り返し登場し、白黒が反転し、そこに具象的な説明は出来ません。何が描かれているかより、全身全霊で感じ取る究極の象徴があるのです。プリミティブな要素としては彫跡が生々しく残されているので、芸術家の生きざまが全画面に刻印されていて、全体構成の計算と芸術家が挑んだ熱情が巧みなバランスを保っていると私は感じました。この作品に出会えただけでも本展に来て良かったと思えたひと時でした。