Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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「切られた首の自画像」について
「カラヴァッジョ」(宮下規久朗著 名古屋大学出版会)の「第8章 末期の相貌 」の「2 切られた首の自画像」の気になった箇所を取り上げます。「ボルゲーゼ美術館にあるカラヴァッジョの《ダヴィデとゴリアテ》は、血の滴るゴリアテの切られた首として自画像を描き込んでいるという点で、『殺人者』、『呪われた画家』といったこの画家につきまとう『黒いイメージ』の生成に寄与してきた。『ゴリアテの首』は、この画家を主題とした小説の題名にもなり、伝説的なカラヴァッジョの血に彩られた生涯と芸術の象徴にまでなっている。」研究者はカラヴァッジョの性格を次のように分析しています。「カラヴァッジョの内部では、常に他者への暴行や殺傷を促す攻撃的な自我が、それを押さえつけようとする超自我と葛藤していたという。そして、現実にはいつも狂暴な自我を押さえ切れないために、無意識のうちに自己断罪への願望を抱くにいたり、超自我に自己を委ねる自虐的で自己陶酔的な願望が生まれた。この超自我を擬人化したものがダヴィデであり、この作品は自己処罰のリビドーを視覚化したものとなっている。」芸術家には何かしら負の意識があって、自己の内面を描き出すことによって感情を吐露し、自己の救済を求めるために獲得した表現が、芸術性を高めることになっている場合があります。まさにカラヴァッジョはそんな芸術家だったと言えます。「《ダヴィデとゴリアテ》が画家の最晩年の特殊な自画像であるとすれば、それは『実生活と芸術とが一致したことのもっとも恐るべき証明』、あるいは死と対峙した極限状態における画家の精神的な表象として興味深い。約半世紀後にレンブラントは、この作品の図像を借用して《ルクレティア》(ミネアポリス美術館)を描いているが、カラヴァッジョの辞世ともいうべき《ダヴィデ》は、まさにレンブラントに通じる芸術の自伝的性格を予告しているように思われるのである。」今回はここまでにします。