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「神戸時代」について・読後感
「一期は夢よ 鴨居玲」(瀧悌三著 日動出版)の「神戸時代」についてまとめます。本書はこれが最後の単元なので、読後感もまとめます。画家鴨居玲の波乱に満ちた人生も残すところ僅かになりました。「(玲の)内側の意識は、銀髪の年齢になっていても青春期と変わらず、生き方は従来の型を出ない。そしてその型とは破滅型で、坂を転げるごとく終焉へと急ぎ、死に瀕して最期の歌を歌うというあの白鳥伝説の歌を、玲は己れ相応に歌って、世人の前から消え、周辺の者たちは、あれが最期の予告だったかと、後に思い当たることとなっている。玲の白鳥の歌の第一声は裸婦である。~略~裸婦自体は、止めることなくモデルを雇って素描を進め、タブローで新境地を開くべく努める。ところが玲は、イメージで描く手法である。文学的な映像性の衝撃感を裸婦に持たせたい。玲の企図する油彩裸婦は他のモチーフと同じく、イメージとしての、ドラマとしての、新しい何かでなくては、いけないのだ。しかし、その何かが玲には出て来ない。」玲は二百号の代表作「1982年 私」を描き、石川県立美術館に購入されました。「(玲が)亡くなるどのくらい前か、二週間前か二ヶ月前か、ともかくその前にも自殺未遂があった。それは幾度も繰り返された一つと思われた。この時も、いつもしたようにその或知友に電話して、死を予告し、驚かせ、未遂で終わると、またいつもしたようにその知友に電話して、神戸に来たら、一緒に呑もうと、玲は朗らかに言った。~略~玲が息を引き取ってから5、6時間、いやそれよりもっと経ったかも知れぬ。午前十時過ぎだ。大阪日動画廊の店長の堀内哲夫は、大阪の主な新聞社全てから電話を受け、玲の死を知らされ、玲の写真の提供を依頼された。堀内は次々に応じ、その間、新聞社の者たちが、自殺という言葉をそれぞれ言うのを聞いた。しかし後で玲の死亡記事を読むと、どこにもそんな言葉はなくて、堀内は実に奇異なことと感じた。」画家鴨居玲、享年57歳。日本で認められた画家ではあるけれど、人格的には破綻しているところもあり、それが表現力を独特なものにしていると私は考えます。時に破天荒なエピソードは、長く教職にあって性格までも凝り固まってしまった私自身には無縁な感じを持ちますが、その幾つかは共感できるところもあります。それは創作上の悩みだったり、真摯に制作に向き合う生々しさが表れている箇所だったりします。画家の知友には理解者が多く、結構恵まれた環境だったことも特筆できることです。しかし、自殺を周囲に予告する破滅的な人生観に、私は頭で判っても、どうしてもそこを理解できず、命の捉えが自分とはまるで異なっていたと考えています。