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東京小平市の「若林奮」展
今日は工房での作業を休んで、東京小平市にある武蔵野美術大学美術館で開催されている「若林奮 森のはずれ」展に家内と行ってきました。彫刻家若林奮は20年前に亡くなっていますが、私が彫刻を学び始めた頃は、同大の共通彫塑研究室におられました。若林先生は彫刻の本科には来られなかったので、私は直接指導を仰ぐことが出来ませんでしたが、デザイン科の友達から講評会があると聞くと必ず出かけていき、若林先生の話に耳を傾けていました。学生だった私は当時は人体塑造をやっていて、西欧的な具象表現に夢中で取り組んでいたため、若林ワールドは理解できませんでしたが、何故かその言葉と鉄を加工する表現に魅力を感じていました。彫刻とは素材を介して思索を加え、そこに自らの考えのもとで空間変容を齎す表現なのだと、私が漸くそうした考えに到達したのはずっと後になってからのことでした。今回展示されていたのは「所有・雰囲気・振動ー森のはずれ」と題された10畳ほどの鉄の部屋で、私が卒業した後に研究室を鉄で覆って作られたものらしく、大学に残っていた友人から聞いていました。まさかこの噂の鉄の部屋が見られるとは夢にも思わなかった私は、早速見に行ってきたのでした。自分の世界観で自らが所有する空間を覆ってみたいという造形的エゴイズムは、若林先生に限らず、空間を対象に作品を作っている作家全員にあるもので、それを実際に作ってしまったらどんなものになるのだろうと興味津々で美術館に足を踏み入れました。大きな空間を占有して、その作品は建造されていました。それだけでなく、後に「振動尺」という作品に見られる、自らの中に尺度を決めた周縁の事象も鉄の部屋には作られていて、これが契機となってその後の若林ワールドが構築されていったのではないかと思いました。難解と私が前から感じていた作品群を見て、家内はこの作品に内蔵するものは意外に単純なものではないかと言っていました。家内は大学時代に空間演出デザインを専攻していて、資料として図示されたデッサンに理解を示していました。従来の彫刻表現に捉われていた私とは違って、容易な解釈をする家内に少々驚きながら、美術館を後にしました。