2018.03.02 Friday
西欧を初めとする都市形成の歴史には、城壁によって他国の侵入を防いだことがあり、その囲まれた空間の中で人々は暮らしていました。都市の近代化にともなって古い壁を壊し、そこに道路を整備したため、旧市街と新市街が明快に分かれている都市もあります。農耕部落が広がって発展した日本の都市とは、明らかに異なる西欧の都市構造は、人々の思考にまで影響を及ぼしていると私は考えています。日本人は平面で物事を考え、西欧人は立体で物事を考えるというのが、20代の頃に西欧で暮らした私の雑駁な実感です。私が生涯をかけた彫刻表現は西欧に端を発したもので、生育文化の相違に折り合いをつけるのが、私には今も困難を感じるところでもあります。若い頃に暮らした西欧での学校生活を思い出すと、講義では思考を構築し、また論考を説明し易く限定していたように思えてなりませんでした。囲まれていた城壁のせいかなぁと私は常々感じていました。長い前置きになりましたが、今月のRECORDのテーマを「囲」にしました。このテーマを思いついた時に、西欧の都市が頭を過ぎったのでした。もちろん西欧の都市そのものを絵にするつもりはありません。RECORDは一日1点ずつ作り上げていく小さな平面作品の総称で、文字通り日々の記録(RECORD)です。西欧の都市構造がイメージの始まりとしても、1ヶ月のうちにはさまざまなイメージの膨らみが出てきます。今年は画面に一定パターンを決めて、RECORDを制作しています。毎晩、夕食後の食卓で鉛筆を走らせているRECORDが、下書きのまま山積されていくことがないように、その日のうちに仕上げまでやっていきたいと願っています。食卓には今も2週間くらいのRECORDの下書きが残っています。早くこれを何とかしなければと思いつつ、時間ばかりが過ぎていく現状です。今月も頑張ります。
2018.03.01 Thursday
昨晩、横浜では雨風で大荒れな天候になりました。深夜は暴風をともなった雨の打ちつける音で度々目が覚めました。どうやら春一番だそうで、明け方になって雨が上がると気温はぐんぐん高くなりました。今日から3月です。年度末を迎え、私は職場の来年度人事を考える時期になりました。毎年やってくる人事は、私にはうまくいったためしがありませんが、1年間を見据えて適材適所を考えながら、一所懸命作っていきたいと思っています。また出会いと別れの季節でもあり、悲喜こもごもの瞬間がやってきます。梅、桜、桃と季節を追って花々がリレーしていくのも春の楽しみです。冬には枯草色だった工房周辺の畑が俄かに色彩を帯びてきて、春の訪れを告げるようです。さて、今月の制作目標ですが、陶彫部品を全て終わらせたいと願っています。ちょっと無理かなぁと思いますが、無理を承知で頑張ってみるつもりです。年度末に少しばかり休暇が取れそうで、その時を利用してテーブル彫刻の柱の部分に挑む予定です。大きめのテーブル彫刻は陶板を接合した柱にします。小さめのテーブル彫刻の柱は、木彫をして表面を炙って炭化させます。スタッフたちの予定が合えば、テーブル部分の砂マチエールをやりたいと思っていますが、欲張り過ぎでしょうか。RECORDは山積みされた過去の作品を少しでも仕上げつつ、今月も一日1点の制作を継続していきます。夕食後に自宅の食卓で取り組むRECORDは習慣になっていて、飼い猫トラ吉を排除しながら集中しています。早く元通りのRECORDのペースにしたいと思っています。鑑賞は先月ほど頻繁に美術館や映画館に行かれませんが、興味の赴くままにやっていきます。読書は美学とアートについての論考を楽しみながら読んでいきます。
2018.02.28 Wednesday
今日で2月が終わります。今月を振り返ると、今までになく鑑賞が充実していたと思っています。まず、展覧会では「仁和寺と御室派のみほとけ」展(東京国立博物館)、「ブリューゲル展」(東京都美術館)、「谷川俊太郎展」(東京オペラシティ アートギャラリー)、「今右衛門の色鍋島」展(そごう美術館)、「石内都 肌理と写真」展(横浜美術館)の5つに行きました。映画では「日曜日の散歩者」「ロープ 戦場の生命線」「謎の画家ヒエロニムス・ボス」(以上がシネマジャック&ベティ)、「クボ 二本の弦の秘密」(横浜ニューテアトル)の4本を観に行きました。これは1ヵ月の鑑賞としては今までの最大数でしたが、公務員管理職との二足の草鞋生活のため何とか時間をやり繰りして鑑賞を楽しんだ結果です。陶彫制作に関しては小さめのテーブル彫刻に吊り下げる陶彫部品2点を作りました。現在は彫り込み加飾も終わって、乾燥を待っているところです。さらに今月は陶彫成形が2点終わっていて、鑑賞で時間を取られた割には頑張ったのではないかと自負しています。RECORDは相変わらず苦しい制作状況が続いています。今月も多くの下書きを残したまま月を越えてしまいそうで、食卓に彩色を待つRECORDが山積しています。読書は北方ヨーロッパの芸術家を扱った書籍を立て続けに読みました。現在は美学者の著作を読んでいますが、これには興味津々です。今月は寒い日が多く、工房で凍えそうになりながら毎週末は制作に明け暮れました。制作工程を鑑みると決して余裕のある状況ではありませんが、今月の制作は及第点をつけたいと思います。
2018.02.27 Tuesday
「アートと美学」(米澤有恒著 萌書房)を読み始めました。以前、「芸術の摂理」や「聖別の芸術」(どちらも淡交社)を読んだ時に、その著者の一人であった美学者米澤有恒氏の評論が気に入りました。本書は米澤氏が出されている書籍と分かって、すぐに購入しました。米澤氏の文章は決して平易ではないと思いますが、私には論法が分かり易く、何故か理解のツボに嵌るのです。加えて美学とは何ぞや?という私の基本的な疑問に答えてくれているので、重宝する書籍だろうと考えます。「まえがき」で米澤氏が言う通り、言い古された「芸術」とか「美術」に代わって、最近は「アート」という言葉をよく耳にします。外来語に訳されただけの話ではなさそうで、「芸術」と「アート」では概念にズレが生じているようです。アートというと、私は包括的で広範多岐にわたる芸術現象をイメージします。本書の「始まりの章」から文章を拾ってみます。「『コンセプトconcept』という言葉がある。アートの広がりにつれて、よく耳にするようになった。『概念conception』から派生した言葉である。~略~この言葉を美学は知らなかった。類似と思しい言葉を探すと、美学には『主題』、『テーマ』、と呼ぶものがあった。だが少し違うようなのである。主題やテーマは芸術に『外から』与えられたものだったが、コンセプトは芸術の『内側』のものであるらしい。」そんなアートを美学がどのように扱うのか、こんな一文もありました。「芸術の意味付けが変わると美学の対応も変わる。とするなら、芸術がアートに変わってきた以上、美学も芸術への対応を変えて当然である…と、そう単純にいくものでもあるまい。~略~コンセプチュアルになったアートに対してなら、やはり本来コンセプチュアルであった美学がコンセプチュアルに対応するのがよいのではないか。ここですでに『コンセプチュアル』という言葉の意味がこんがらがってきている。」面白くなりそうな気配のする書籍だなぁと思いました。通勤の友として楽しみます。
2018.02.26 Monday
「絵の証言」(佃堅輔著 西田書店)を読み終えました。本書に取り上げられていた23人の芸術家の中から8人をホームページのNOTE(ブログ)にアップしました。23人の芸術家のうち日本では比較的知名度が定着している芸術家がいる一方で、私も知らなかった人もいました。生前のご本人を見たことがあるのはルードルフ・ハウズナーだけです。と言ってもウィーンの学校の廊下ですれ違っただけで、声もかけられなかったのでした。23人に対して言えば、全員が国際的な名声を得ていないだけで、いずれの芸術家もその時代の代弁者であることに変わりはありません。その時代を知り、そこで追求した造形的主張や表現の在り方を考える上で、本書は私にとって大変有意義な書籍となりました。日本の書店は美術専門書があまり売れないことがあって、棚の片隅に追いやられ、書籍そのものが無くなってしまう傾向にあります。東京の大きな書店に行った折に、あれもこれも仕入れてきますが、私などは僅少の読書家だろうと思います。その中でも北方ヨーロッパの近代美術に関する書籍は貴重です。自分が若い頃に生活した彼の地の空気感を知っているだけに、本書は北方ヨーロッパの曇り空が垂れ込める鬱陶しい季節とともに、不安定な時代背景に苦しんで孤軍奮闘していた芸術家を思い起こさせます。文化の違いこそあれ、それは日本でも同じだったのではないかと考えています。