Yutaka Aihara.com相原裕ウェブギャラリー

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  • 「木」という素材
    祖父が宮大工、父が造園業という環境で育った自分の周囲には木材が豊富にありました。でも木の美しさに触れたのは自分の生育歴からではなく、滞欧中に訪れたルーマニアのマラムレシュ地方に点在する木の家々を見た時でした。柱の抽象的な装飾は彫刻家ブランクーシそのもので、生活に密着した美を認めました。帰国後は鎌倉や京都の寺院を訪れ、日本人が育んだ木造の美を再発見し、そこで初めて自分の環境が木とともにあったことを思い起こしました。それから自分の作品に木材を使うことになりました。木は湿潤な日本の風土が生んだ造形素材です。肌理細やかな細工に適していて、表面は様々な仕上げの方法があります。風雪に耐える強さも兼ねています。自分はあえて彫り跡を残した抽象形態を彫り上げています。木を彫るという作業は健康な精神状態を保つのにいいのではないかと思う時がかなりあります。最近は焦がして炭化させる面白さを知りました。木は当分の間、自分が関わっていく素材だと思っています。
    「砂」という素材
    「砂」は小さな石が集った素材です。風や雨によって姿を変えていき、自然の齎す雄大な景観を作ることがあります。砂丘に現れる風紋に感動を覚えるのはきっと私だけではありません。「砂」はまた不毛なイメージと結びついたり、崩壊の美学を生んだりします。それは人が勝手に妄想することですが、人の手による造形作品に「砂」を使うとすれば、素材の持つ特徴を生かしつつ、「砂」のもつイメージに忠実に従うことがいいと考えます。地平への広がりを見せる「砂」。風化されたものへのオマージュ。そうした世界を具現化するために私はよく「砂」を使います。まだ海岸や砂丘でインスタレーションをした経験はありませんが、「砂」を硬化剤で固めて造形化するだけではなく、いづれ自然に還る「砂」を本来の姿のまま使ってみたいと考えています。
    不安定な日常の小さな安定
    横浜市の公務員でありながら不安定な日常とはどういうことか?と叱られそうな書き出しですが、収入が安定しているとはいえ、心が満ち足りているとは限りません。もちろん経済的な安定は生活していく上で必要なことです。それでも自分のやりたいことがやれて、それで生活が成り立っていくのが理想だろうと思います。元来地位にはあまり興味がないのに、何の因果か管理職になり、それに振り回されて、やりたいことが思うようにできないというジレンマはあります。管理職もつまらないものではなく、やり甲斐は感じていますが、自由な創作に比べると、たとえどんな身分であれ自分には色褪せて見えてしまうのです。不安定な心理状態の中で、唯一RECORDを描いたり、雛型を作ることが心の拠り所となり、小さな創作行為を大切にしながら少しでも心の安定を得るために日常を過ごしていると実感しています。
    P・クレーの描写について
    今朝NHK番組「日曜美術館」を見ていたら、ドイツ人画家P・クレーを取り上げていました。クレーは自分のブログにも度々登場していますが、しばらく記憶の隅にいたと思うと、また立ち現れてくる芸術家の一人です。自分が24歳の頃、初めて訪れたドイツのミュンヘンのレンバッハ・ギャラリーで、クレーが若い頃に描いた具象画に魅せられました。それ以来、クレーはずっと自分の中に住み続けています。その具象画は銅板でしたが、樹木の上にグロテスクな人物がいて、不気味な眼差しでこちらを見ていて、自分の心が抉られるような気がしました。クレーが幼児のような絵を描いても、自分にはあの銅板画がいつも頭にあり、何か恐ろしいものが潜んでいるように思えるのです。番組ではクレーが戦争に翻弄されていた時代背景を語っていました。記号のようなカタチを描いた抽象画であっても、私はクレーが外的な戦争や内的な心理描写をそのまま具象として表現したように思えてなりません。Yutaka Aihara.com
    見せない彫刻
    故若林奮先生の作品の中に、ほとんど土中に埋めてしまって僅かしか見えない彫刻があります。府中美術館の野外にある鉄の作品も上の部分しか見せていない彫刻です。それを見ると鑑賞者は唖然としますが、自分にはその考え方が多少理解できます。「存在」という概念は見えているものばかりではなく、見えていないものにもあると思うからです。以前から自分のイメージに度々立ち現れてくる作品は、壁体の中に陶彫を埋め込んだもので、砂か漆喰で覆い隠した陶彫作品が一部見えていて、鑑賞者に全体像をイメージさせるという作品です。陶彫は、だからといって全体をしっかり作る予定でいます。見せ方ではなく、彫刻のあり方を考える作品を作ろうと考えているからです。それは床に置くものでも壁を使ってもいいのですが、自分のイメージには壁が出てきます。ギャラリーの壁面全体を使うような作品を考えているのです。実現できるかどうかわかりませんが、デッサンか雛型で残しておこうと思っています。