2019.02.25 Monday
先日、東京の4つの美術展を巡った時、私が一番身近に感じた展覧会は、東京都美術館で開催中の「奇想の系譜展」でした。嘗て読んだ美術史家辻惟雄氏による著作「奇想の系譜」は、日本美術史に斬新な視点を与え、それによって江戸絵画が抜群に面白くなったことで、現在の「日本美術ブーム」を作り出したと私は思っています。最近の伊藤若冲の人気ぶりは大変なもので、都美術館の前で長蛇の列になって何時間も待った記憶が甦ります。その著作に登場する画家たちの作品を集めた展覧会となれば、私は必見と決めていました。図録によると今回取り上げた画家は8人になると書かれていました。「岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢芦雪、歌川国芳ー六人の画家をとりあげたこの『奇想の系譜』は、以後の江戸時代絵画史研究、日本美術史研究に対して、決定的な影響を与えた。そして、本展はこの六人に加えて、近年とみにその再評価の機運が著しい白隠慧鶴、鈴木其一の二人を加えて企画したものである。」という日本画家8人衆は、私が中高の美術科の授業で習った覚えがない画家たちで、社会人になってから漸く知り得た摩訶不思議な世界観をもつ画家たちでした。大学生になった時には、私の頭の中は欧米からやってきた前衛運動が中心で、我が国の美術を振り返ることもなく過ごしていました。象徴主義や抽象絵画は西欧の専売特許ではなく、まさに足元にありと思ったほど我が国の奇想の画家たちは、私に豊かなイメージを与えてくれました。縄文土器の時もそうですが、誰かが新しい視点を与えてくれると、見過ごしていたものが現代に甦り、ハッとすることが多くあります。図録にこんな箇所もありました。「結論めいたことを言えば、『奇想の系譜』という本は”時限爆弾”だったのだと思う。辻氏が導火線に火をつけた1970年代から、それに注目する若い研究者たちが地道な調査を続けることによって、その火を絶やさぬようにしっかりと受け継いでいった。そして21世紀に至って、ようやく導火線から爆弾本体に火が届いて、現在の『若冲ブーム』『江戸絵画ブーム』『日本美術ブーム』が現出したのだと思う。」(引用は全て山下裕二著)これから爆破が連鎖し、次から次へと面白い世界観を有する作品が登場してくることを切に願っています。
2019.02.24 Sunday
今日は朝から工房に行って制作三昧になりました。気温が少しずつ緩んできて作業がやりやすくなりました。2月の週末が今日で終わります。大きな新作は若干の陶彫部品が間に合わず、完成は来月に持ち越しになりました。午前9時から午後4時までの7時間が週末の定番の制作時間です。焦らず、休まずというコトバを念仏のように唱えて作業を続けていますが、ひと頃前に比べると集中力が長続きしません。小刻みに集中して作業を継続している感じがしています。何年やっても巧みに作れないのは、自分が不器用のせいですが、それが効を奏し、彫刻に彫刻たる魂が宿ると学生時代に師匠に言われたことがあります。陶彫制作も20年以上もやっていて、なかなか思うようなカタチにならなくて困ってしまう時があります。彫刻におけるイメージの優位は自分にとって都合の良いものなのです。これが技巧を必要とする工芸ならば、自分は立ち行かなくなります。今日の陶彫成形もやや変形していたので苦労しました。ひょっとして割れるかもしれないという陶特有の強迫観念があって、心安らかな制作は今までも皆無です。今日も乾燥していた陶彫部品に仕上げをして化粧掛けを施して窯に入れました。焼成はいつも祈るような気持ちになります。人の手が及ばない世界は、面白いとは思うけれども、反面落ち着かない心の状態になります。今回は随分窯を使っているなぁと思えるのは、請求される電気代で分かります。昨年以上に電気代がかかっているのです。ひとつひとつの陶彫部品が大きいせいかもしれず、新作はせいぜい2個しか窯に入らないのです。今日の夕方窯に入れると水曜日に窯の蓋を開けられます。日常の風景になっていますが、毎朝出勤前に温度を確認しています。電気代を払う時にあまりにも多額なためコンビニの店員に驚かれることもあります。
2019.02.23 Saturday
2月最後の週末になりました。新作の大きな陶彫作品は、数個の陶彫部品を作り上げれば完成が見えてきますが、どうやら今月中に完成は無理なようで、来月に持ち越しになります。その他の制作途中にあるテーブル彫刻も来月から始めようと思っています。とは言え、来月は年度末を迎えてウィークディの仕事が立て込むのが予想されるため、創作活動がどの程度まで進むのか不安です。今週も自分が担当する横浜市のある部署の会計処理をしたり、書類の整理が始まっていて、今年度のまとめをしている最中なのです。私は再任用管理職なので、その都度まとめをして次の管理職に速やかに引継ぎが出来るように準備しているのです。そういう意味で3月は多忙を極めます。来年度人事もいよいよ始まり、職場では出会いと別れが待っています。職場の詳しいことはここでは書けませんが、管理職を何年やっていても、この時期はシンドいなぁと思っています。今日の午前中は工房に行かず、母の所有している不動産の管理会社の人が自宅にやって来ました。2年に一度の更新で、私が母の代理を務めました。母が全部私に任せてくれているので、私が代筆して書類を作成しました。土曜日はウィークディの仕事の疲れがあって陶彫制作が捗らないので、ちょうどいい骨休めになりました。午後は工房に出かけました。工房の建っている植木畑には、さまざまな花が咲いていて、春が確実にやってきている気配を感じます。自宅から数分のところにある工房ですが、植木畑の中を歩いていると木々の息吹を感じ、気持ちも制作に向かう気構えが出来て、この移動の数分は私にとって貴重な時間です。自宅から少し離れた場所に仕事場を持っている幸せを噛み締めながら、毎週末に歩いています。午後から4時間程度の作業でしたが、40キロの土練りを行い、大きなタタラを数枚作りました。明日の成形の準備です。明日は朝から工房に篭ろうと思っています。
2019.02.22 Friday
現在、通勤時間に読んでいる「ある日の彫刻家」(酒井忠康著 未知谷刊)に、彫刻家保田龍門・春彦による父子の往復書簡の章が出てきて、嘗て羨望の眼差しで読んだ「往復書簡」を思い出しました。私は武蔵野美術大学出版局に問い合わせをして、同書をここから郵送してもらったのでしたが、自分の職場に置いておいて、仕事の合間を縫って読んでいたのでした。これはどのような書簡なのか、本書から引用すると、「一人の若き青年が、明治以来、何世紀にもわたって引きずってきた『西洋コンプレックス』の呪縛に対して、いかにその呪縛に苦しみ、そして悩み、跳ね返そうと努力したかを具体的な体験を介して、この書簡は語っている。同時にそれは、いわゆる『洋行者』とよばれてきた日本人の父子二代にわたる貴重で珍しい記録にもなっている。」とありました。保田春彦先生に直接指導を受けたことがなかった私は、大学で先生にすれ違う度に身が引き締まる空気を感じ取っていました。私は雲の上の人という感覚を保田先生に感じていましたが、この書簡では私自身が滞欧生活で体験した悩みと同じような悩みを、保田先生が持っていたことに半ば驚きつつ、また父の保田龍門によって精神的な支援があったことは羨ましい一言に尽きるなぁと思っています。本書ではこんな箇所もありました。「わたし(著者)はいわゆる世間的な通用を価値の秤とする考えに傾かない保田さんが、妥協を許すかゆるさないかの生活の現実に直面して、思案に暮れ、同時にそれは作家としての自分の立ち位置を確認する作業ともなっていたのではないかと思った。」作家(彫刻家)として生涯を全うしたいと考える上で、食べていかなければならない現実に触れ、思索を含めた芸術活動を進めるためにはどうしたらよいのか、どこで折り合いを付けるのか、この道を選んだ人は全員が直面する課題です。私も已むを得ない状況の中、横浜市の公務員になり、二足の草鞋生活がスタートしました。彫刻家保田龍門・春彦による往復書簡は、そんな世知辛い問題も垣間見せる一方で、崇高な文学作品のようにも思えます。現在は父子とも他界し、貴重な書簡だけが残されていますが、さまざまな美術館に所蔵されている保田先生の作品を見ながら、書簡の内容を思い出すと、作家が作品にかけた思いに浸れて感慨一入になります。繰り返し述べさせていただきますが、彫刻家父子の往復書簡に対し、私には羨望しかないことを断っておきます。
2019.02.21 Thursday
RECORDは一日1点ずつポストカード大の平面作品を作っている総称を言い、文字通り自分にとっては日々創作しているRECORD(記録)なのです。2007年から毎日欠かさず制作していて、11年目を迎えています。私はコツコツ継続していくのが得意ですが、当初こんなに長く続くとは思いもせず、そうであれば生涯を賭けてRECORDをやっていこうと決めている次第です。陶彫制作と違い、体力を要しないので自分が老境に差しかかっても出来るのではないか、現在の母の年齢(90代)までやれれば、1万点以上の作品が手元に残るはずと思って、ここはひとつ頑張ってみようと思っているところです。RECORDが始まった2007年に、1年間分を額装して横浜の市民ギャラリーに展示したことがありました。額装があまりにも大変だったので、それ以降はホームページで発表しています。カメラマンが1年間分を一日かけて撮影し、画像を随時アップしていきますが、そこにコトバを添えています。コトバを紡ぐのは学生時代からの自分の憧れで、どんなに拙くても試みたいと考えている表現方法なのです。今回2018年の1月から3月までのRECORDをホームページにアップしました。2018年は月毎にパターンを配置した画面にしていました。1年前の懐かしい作品を振り返っています。私のホームページに入るのは左上にある本サイトをクリックしてください。ホームページの扉にRECORDの表示が出てきますので、そこをクリックすれば今回アップした画像を見ることが出来ます。ご高覧くだされば幸いです。