2017.08.04 Friday
先日、東京駅にあるステーションギャラリーに立ち寄り、日本画家不染鉄の展覧会を見てきました。没後40年を記念して開催された回顧展でしたが、私は不染鉄という日本画家を知らず、初めて見る作品ばかりでした。まず、民家の立ち並ぶ俯瞰した風景画に魅了されました。墨の濃淡や暈しを利用した「朦朧体」や南画の影響が見て取れましたが、その画力の高さに驚きました。ポスターにもなっている「山海図絵(伊豆の追憶)」は富士山を描いた大作ですが、ちょうど箱庭を見るような独特な構図と描写が際立っていて、集落や手前に広がる海岸線、波間に泳ぐ魚や漁をする船もあり、俯瞰と接近描写が一つの世界を形作っていました。雪を頂いた富士山を描いた日本画の中では、独自の視点をもつ不染鉄の代表作とも言えます。不染鉄は、各種展覧会での数々の受賞歴があり、若い時は大島に渡って漁師をやっていたり、奈良では教職に就いたりして、エピソードの多い変わった生涯を送った人のようでしたが、画壇とは一線を引いていたので、知名度は実力ほどになかったのではないかと感じました。今回の展覧会には多くの人が訪れて、不染鉄ワールドに酔いしれていました。描写力と様式美が混在する画風は、見ていて分かり易い一面もあって、今後人気の出る画家かもしれません。私は個人的に不染鉄ワールドに度々登場する大海の波の表現が好きで、そこに点在する島々との描写対比が面白かったし、超絶技巧とも言える集落の表現に惹かれました。さすが漁師をやった人だけあって、海を人一倍見て過ごしていたのでしょう。絵画が単なる様式にならず、説得力をもっているのは、実体験からくる海の観察があればこその表現であろうと思います。
2017.08.03 Thursday
ポーランドを代表する映画監督アンジェイ・ワイダが昨年10月に亡くなり、遺作「残像」が上映されました。東京の岩波ホールでは既に上映が終わりましたが、横浜のミニシアターはこれから上映する予定になっています。映画では実在した前衛画家ストゥシェミンスキを主人公にしていますが、ワイダ監督自身もクラクフ美術大学を中退し、ウッチ映画大学に転学したことがあり、当時美大を席巻した社会主義的リアリズムを拒んだ経緯があるようです。ストゥシェミンスキは、自国ポーランドがソビエト連邦の勢力圏に組み込まれ、一党独裁体制が確立される中で、死に至る最後まで自由を求め抵抗し続けた画家でした。ストゥシェミンスキは革新的な造形理論でも国際的に評価されていて、ウッチ美術館や造形大学の創設にも関わった実力者だったようですが、政治によって葬り去られた画家でした。私もその名を聞いたことがなかったので、現代美術史の中では忘れられた存在なのでしょう。映画では芸術家としての英雄像を描くことがなく、寧ろ次第に社会的にも経済的にも追い込まれていく人間を描き出しています。映画のあらゆる細かな場面にも全体主義国家の危うさが描かれていて、その対岸にある前衛芸術との狭間が埋められることなく映画は終わります。観ている私たちに強烈なメッセージを残して…。ワイダ監督自身の生涯揺らぐことがなかったたったひとつの主張が心に残りました。「残像」とはストゥシェミンスキの絵画の題名から取っているようですが、映画全体の印象が残像として刻まれたように私には思えました。
2017.08.02 Wednesday
響くというコトバから連想されるのは、音楽の音色です。若い頃はウィーンにいて、彼の地の国立歌劇場に通い詰めていた時期がありました。一流のオペラが立見席から僅か数百円で観られたので、毎晩出かけていたのでした。当時、冬場は下宿先の暖房費がかかるので、歌劇場で過ごしていた方が経済的だったこともあり、貧乏と贅沢が表裏一体を成していました。私は特に音楽好きではなかったのですが、毎晩オペラに通っていると指揮者によって音響が微妙に異なることが分かってきました。ウィーン国立歌劇場のオーケストラを基準に他国のオーケストラを聴くと、音の強弱や長短も微妙に違って聴こえたりしました。音楽家にとっては当たり前なことが、私には発見の連続でした。その頃、毎晩親しんでいたオペラや交響曲は、現在はまるで聴いていません。放送やネットからデジタル音響を取ることは可能ですが、30年前に帰国してから生のオーケストラを聴くことがなくなりました。音楽会には、私は美術展や映画のように気楽に行けず、声楽家の叔父も加齢のためリサイタルを開くことが難しくなり、家内の胡弓を聴くことはあっても、西洋的な音楽の響きは本当にご無沙汰しています。今月のRECORDのテーマを敢えて「ひびく」にしました。私の頭の中にはオーケストラの響きがあります。これを視覚化したい欲求は昔からありました。画家カンディンスキーの非対象絵画がイメージの源泉になっていて、カンディンスキーやクレーのように音楽を連想する絵画を私も作ってみたいと思っています。今月も頑張ってRECORDを継続していきます。
2017.08.01 Tuesday
8月になりました。学生時代は長い夏休みを楽しみにしていましたが、社会人になっても夏季休暇が取れるこの時期は楽しみなのです。ここ数年は、毎年8月に東南アジア各地を旅行しています。世界遺産に触れることが目的で、旅行の楽しさと同時に創作活動に体験を生かす喜びもあります。アジアの世界遺産は残すところ中国やインドといった大きな国ばかりになって、とても5日間の夏季休暇では時間が足りないと考えています。今夏は世界遺産を巡る旅行をちょっと休んで、アジアの存在感のある博物館に行こうと決めました。それは台湾の故宮博物院で、一日かけてじっくり鑑賞してくる予定です。鑑賞で言えば東京でも大きな企画展が開催されています。今月は日本内外で鑑賞を充実させたいと思っています。制作の面では、新作に邁進する1ヵ月にしたいと考えています。大きなテーブル彫刻の床置き陶彫部品の一段目の成形と彫り込み加飾を終わらせるのが目標です。昨年より職場では8月に閉庁期間を設けています。夏季休暇や通常の年休が取得し易い環境を整えてあるのです。この閉庁期間を利用して旅行だけではなく、創作活動もこの時期に集中して行いたいと考えています。陶彫に明け暮れたい8月ですが、RECORDも頑張りたいと思っています。行動が活発になると読書を置き去りにする傾向が自分にはありますが、夏季休暇を有効に使うためにも読書を含めた自分の時間を大切にしようと思っているところです。
2017.07.31 Monday
毎年夏に東京銀座のギャラリーせいほうで個展を企画していただいている関係で、個展開催までの準備や開催中の接待、最終日の後片付けがあって、7月は毎回充実した1ヵ月を過ごすことになります。今月も例外ではありませんでした。個展は、自分が彫刻家であるという実感、若い頃の滞欧生活のあれこれが甦ってきて、公務員とは違う自分の原点を見つめる貴重な機会になっているのです。ひとつゴールを突破して、次のステージに向かう飛躍の7月が今日で終わります。新作への取り組みはもう始まっていて、日曜日だった昨日も頑張っていました。実技の両輪である鑑賞は、展覧会と映画をひとつずつ観てきました。展覧会の方は勤務終了後、東京駅まで出かけて、ステーションギャラリーで開催している「不染鉄」展に行ってきました。「没後40年 幻の画家」という副題が示す通り、私の知らない日本画家でしたが、不染鉄ワールドの魅力に憑りつかれてしまいました。こんな画家が埋もれていたなんて信じ難いくらいその画力の凄さに驚きました。詳細な感想は後日に回します。映画は岩波ホールでアンジェイ・ワイダ監督の遺作「残像」を観てきました。全体主義国家に翻弄され、己を貫く前衛画家の姿勢を垣間見て、久しぶりに硬質な映画に接することができた喜びがありました。これも詳細な感想は後日に回します。RECORDは毎晩1点ずつ下書きをしていますが、今まで溜めてしまった過去の作品の彩色や仕上げを少しずつ片づけて、山積みが徐々に解消しつつあります。読書は19世紀末のフランス絵画に関する書籍を読んでいるところです。いずれにせよ今月は個展があったため充実した1ヵ月でした。