2014.06.17 Tuesday
芸術家が作品を生み出す場所や周囲の環境に覗き見的な興味を私は持っています。学生の頃も大学の一角を使って、彫刻科の先生方が真摯に制作されている現場を垣間見て、自分の意欲を高めたりしていました。東村山市にあった池田宗弘先生の工房兼自宅に行くことを許された時、学生だった自分は有頂天になりました。さまざまな彫刻家の個展に行ったときに求めた図録に、作業風景やアトリエの写真が載っていたりすると、その環境を想像するのが今でも好きなのです。自分が数年前に建てた工房も、今回の図録に作業風景として掲載することにしました。私は創作の現場への拘りが強い作家だと自覚しています。どんなイメージで作品を作るかは制作現場の環境に負うところが大きいと思っているからです。東京都立美術館で開催されている「バルティス展」には画家バルティスのアトリエが再現されていました。再現にあたっては日本人の奥様のお力添えがあったとは思いますが、大変興味深く拝見しました。こんな環境の中で、あの光に満ちた静謐な画面が生まれたと思うだけで自分は満足を覚えました。
2014.06.16 Monday
先日、東京上野の都立美術館で開催されている「バルティス展」に行ってきました。テレビやポスターの宣伝効果があって、自分もあまり知るところがなかった巨匠の作品を一目見ようと出かけたのでした。露わなポーズをとる少女を描いた絵画や、日本人の奥さんがいることは前から知っていました。ただ20世紀のシュルレアリスムや抽象主義等の画家に比べると、自分の中での知名度は高いとは言えないのでした。今回まとまった作品を見て、バルティスは力量のある芸術家であることは間違いなく、静謐で緊張感のある画面から漂う美しさに魅了されました。危うい均衡の上に成り立つ美というフレーズをどこかで読みましたが、物憂いな少女の肢体がスラリと伸びた室内画に不思議な雰囲気がありました。晩年は奥さんをテーマにしたものがあり、日本の浮世絵に通じる構成が垣間見えました。親日家だったバルティス。実は身近な存在だったことを改めて知った展示内容でした。
2014.06.15 Sunday
今日は工房で一日中作業をしていました。FMヨコハマから流れてくるワールドカップ日本対コートジボワール戦に耳を傾けながら、石膏の雌型の補強をやっていました。時として手が止まり、遠いブラジルにエールを送ったりしていました。試合は残念な結果になりましたが、これだけ世界中を熱くする競技が他にあるでしょうか。今日の工房は真夏の暑さで、滴る汗の沁み込んだシャツを3枚も換えて作業を続けていました。午後は梱包用の箱作りに取り組みました。箱にするベニア板が足りず、ホームセンターに買いに走りました。梱包は間に合うかどうか、陶彫部品の数が多いというのは何かと手間がかかるので、作品が完成した後でも心配事が尽きません。箱作りは、ウィークディの夜も作業をしなくてはならないかもしれません。単純な作業ですが、作品保存のために大切な仕事です。
2014.06.14 Saturday
自分が大学で彫刻を学んでいた頃は、頻繁に石膏型取りをやっていました。人体塑造をやっていたので、作品を保存するためには粘土による塑造を石膏に置き換えるしか方法がありませんでした。まさか習作をブロンズに鋳造するわけにもいかないので、石膏が一番安価で便利な素材として大いに使用していたのでした。今日は朝から工房に篭って、来年に向けて新作のイメージを練っていました。新作の陶彫には石膏の型が必要で、そのために今日は粘土の原型から石膏の型取りを行いました。石膏を扱うのは久しぶりです。最近いつ石膏を扱ったのか忘れているくらいです。工房の棚に焼石膏が保管されているので、数年前石膏を手にしたように思いますが、何を作ったものか思い出せません。あるいは工房に出入りしているスタッフが石膏を扱ったのかもしれません。ともあれ自分にとっては懐かしい石膏型取りを行いました。石膏には独特の匂いがあって、学んでいた当時の大学の彫刻棟を思い出しました。工房に薄い真鍮板があったので、それを切金として利用しました。自宅にあった大き目のスプーンを、工房のコンクリートの床に置いて、ハンマーで叩いて石膏用ヘラを作りました。粘土原型を回転台に置くと、昔の記憶が甦りました。何度も石膏を水に溶いて雌型を作り始めると、一瞬20代に戻ったような錯覚がありましたが、その後疲れが出てきたので、やはり年齢には勝てないなぁと思いました。ちょっとした石膏型取りでしたが、夕方まで作業しました。若い頃は何の苦も無く石膏型取りをやっていたので、そのイメージでいたのが間違いでした。石膏型取りは一日がかりになり、結構疲労しました。明日は個展のための作品梱包をやらなくてはならないと思っています。
2014.06.13 Friday
私の場合、美術館に行く目的はほとんどが海外から企画展で、普段見ることの出来ない作品に出会える絶好の機会と思って出かけています。その際に常設展を見ることはありません。企画展で体力を費やしてしまっていることと、常設展ならいつでも見られるという気持ちが働くのです。過日見てきた国立西洋美術館で開催中の「非日常からの呼び声」展は、まさに美術館の所蔵作品を、作家平野啓一郎氏のチョイスによって選抜し直した所謂常設展の展示替えをしたものでした。作家のコメントとともに仕分けがされていて、成る程これは面白い企画だと思いました。時代別や作家別に展示されている従来の常設展とは異なり、テーマを設けることで、鑑賞者側に作品を見る視点を与え、新鮮な驚きを発見させる契機にしていました。当美術館にはかなり優れた所蔵作品があって、しかも作家のコメントも楽しくて、これは学芸員の企画の勝利と言えます。莫大な費用をかけなくても、こんな方法があったのかと思い知らされました。