2009.08.25 Tuesday
表題は岡本太郎著「日本の伝統」の中に収められている縄文土器を扱った章です。今夏新潟県の十日町市博物館に行き、国宝「火焔型土器」を見て、自分もかつて岡本太郎の文章に啓発されて、縄文土器の美しさに気づいたひとりとして、もう一度「日本の伝統」を読み返してみたくなったのです。「彼らはきわめて厳格な宗教儀式なしには猟ができないと考えていますが、それはけっしてたんに功利的な理由ではありません。〜略〜矛盾にたいしてとられる、せっぱつまった厳粛な営みにほかならないのです。そこに不安と危機があります。強烈な矛盾に引きさかれ、それに堪え、克服する人間の強靭な表情を縄文土器ほどゆたかに誇り、しめしている芸術を私は知りません。」といった文章はどれもテーマに対してまっすぐに語られていて、気持ちよさがあります。まるで縄文人が自作を語っているようであり、文章によって縄文文化が構築されていくようです。なるほど若い頃の自分に沁みてきたエッセイだなと改めて思った次第です。
2009.08.24 Monday
A・ブルトン「魔術的芸術」の最終章に辿り着きました。今夏ずっと本書を読んでいたわけではなく、いろいろ浮気もしましたが、これはなかなか手強い書物であったという印象は拭えません。最終章は「ふたたび見出された魔術 シュルレアリスム」で、ブルトンの世界観が面目躍如とした章です。本書で、シュルレアリスムは「人間精神の全面的な建てなおし」と述べ、「心の領域の深みにおける内観と、宇宙および情念の激動への狂おしい参加とを一体化させるような『王道』」と説いています。デュシャン、クリンガー、デ・キリコ等を流暢に論じていて、「魔術的芸術」がふたたびシュルレアリスムによって継承され、「精神の無条件の解放」を結びの言葉にしています。読み終えてみると、本書は最終章で語られていたシュルレアリスムの視点・思考が、即ち「魔術的芸術」の根幹を成すものではないかと思ってしまうほど、最終章で述べられていることにすべてが向っていたとも思えるのです。通念の美術史を別の角度から論じた本書は、歴史の継承が論証によって影にも日向にもなりうることを示しています。書店で偶然見つけた本書には、自分の興味関心がある図版が多く掲載されていたので、つい購入して読むことになったのですが、本書をじっくり読み解きながら、今夏は素敵な時間を過ごせたことに感謝せねばなりません。またこんな本と出会えればと願っています。
2009.08.23 Sunday
現在、MOA美術館で「アフリカの美〜ピカソ、モディリアーニたちを魅了した造形〜」という企画展が開かれていて、これは自分の興味関心のある分野なので、休日の高速道路の混雑にも関わらず、熱海まで出かけていって見てきました。かつてニューヨーク近代美術館で「20世紀美術におけるプリミティヴィズム展」があって、それに関する分厚い書籍(図録)を、自分が滞欧していた国で手に入れて持っています。その書籍はドイツ語で書かれています。(翻訳はキツいので図版だけ見ていました…)今回の「アフリカの美」展は、ピカソを初めとするヨーロッパの巨匠との作品をアフリカ民族の仮面や布と並列して、確かにその相似性を打ち出した展覧会ではありますが、それだけに留まっていない印象を持ちました。アフリカでそれらのモノが美術ではなく、儀礼や日常生活の中から生み出されてきたモノであることを捉え、さらに現代アフリカの「美術」も総括する内容になっています。いわば西洋一辺倒な考え方(ヨーロッパの芸術家がアフリカから着想を得た当時の思想)から、一歩抜け出し、アフリカ側の美術も網羅した展覧会になっていると思いました。
Yutaka Aihara.com
2009.08.22 Saturday
A・ブルトン「魔術的芸術」もあと少しで終わりです。先日出かけた「ゴーギャン展」に纏わる章に差し掛かりました。「二つの大いなる綜合」という副題がついた章です。二つというのはギュスターヴ・モローとポール・ゴーガン(ゴーギャン)の二人の画家を指します。「魔術的芸術」で取り上げる芸術家はいずれも特徴があって、この二人の画家を見てみると、なるほどと頷けるものがあります。モローは神話の探求に専念し、魔術的な「眼」をもつ画家として語られ、今までの頽廃主義的な評価に厳しい論評を加えています。ゴーガンの作品もいたるところに魔術が存在すると書いていて、批評家のいう原始主義に対して批判的です。両巨匠とも「魔術的芸術」の観点からすれば、美術史の中で重要な役割があっていいはずと思えてきます。「ゴーガンの絵画はヒューマニズムなどではなく、タブローの物質的諸要素そのものから出発する神話の探求である。」という箇所が印象に残りました。
Yutaka Aihara.com
2009.08.21 Friday
表題の展覧会は、静岡県立美術館で開催されているもので、知人からチケットをいただいたので行ってきました。クレーはたびたびブログに書いている画家で、この巨匠に関する興味はずっと尽きません。自分は20代前半で初めてミュンヘンに行き、レンバッハギャラリーで見たクレーの版画や素描に刺激を受けて以来、ずっとクレーの展覧会があると出かけていました。今回の企画は、日本や中国の美術に対するクレーの影響が、どんなカタチで表れているかという視点で、主に素描を中心とした展示内容になっていました。やはりクレーは面白いと改めて思いました。サクっと描いた線や思い惑う線がクレーの心理描写そのもので、落書きのような紙片がクレーの内面を雄弁に物語っていました。北斎漫画のポーズを模した小作品に、自分は何かを瞬間的に感じ取って、当時クレーの身近で起こっていた出来事等に思いを馳せました。晩年迷いの無い線や面が強靭な画面を作り上げても、カタチや色彩の詩人でありつづけたクレーの詩魂を感じずにはいられませんでした。