2019.08.06 Tuesday
新潟県魚沼市には名匠石川雲蝶の残した数多くの木彫や絵画があって、僅か2日間の旅行とは言え、私は大変な刺激をもらいました。石川雲蝶は、自分とは異なる表現方法をもつ彫刻家ですが、その常軌を逸した作品群は、私に弛まぬ創作意欲と震える魂の在処を齎せてくれました。その中でも西福寺開山堂の天井を彩る「道元禅師猛虎調伏」は圧巻でした。西福寺開山堂の解説にはこんな一文がありました。「本堂の左手に連立された開山堂は、江戸時代末期1857年(安政四年)に二十三世・蟠谷大龍大和尚によって建立された。開山堂の向拝ならびに堂内には、幕末の名匠と謳われる石川雲蝶作の彫刻・絵画・漆喰鏝絵の数々が施されていて、その作品群が日光東照宮にも劣らない素晴らしいものであることから、いつからか『越後日光開山堂』と呼ばれるようになった。」開山堂の内装全体に広がる浮き彫りは、その一つひとつの具象表現に鬼気迫る力があります。ついそこに見入ってしまい、複数の物語がそこに彫りこまれているのに気づきます。それぞれの場面をじっくり見ていくと、欄間には遠近法を取り入れた彫刻があったり、また若い女性が幽霊となって登場している場面もあって、その表現の多様性に驚かされます。天井全体のテーマは「道元禅師猛虎調伏」で道元禅師の行為が描かれていました。解説書からその箇所を拾います。「この物語は『道元禅師が天童山への行脚の途中、山中で虎に襲われるまさにその時、手にした拄杖を投げつけ座禅に入られた。すると拄杖がみるみると龍に姿を変え、禅師の御身を守った。』という場面である。」そのドラマチックな場面を、ハリウッドのスペクタクル映画でも観ているように錯覚し、迫ってくる圧倒的なパワーを感受しつつ、仏の教えに導かれてしまうのでした。他の多くの仏教美術に見られるような静かに冥想する雰囲気はなく、アクティヴな捉えとしての宗教感がそこにあったように思いました。全ての量感が絶え間なく動いて、祈る者や鑑賞する者の周りをぐるぐる回っているように感じられました。鑿の彫り跡をよく見ていくと、迷いのない立体表現にため息が出ました。また、透かし彫りの上に岩絵の具で彩色されていて、その生々しさも手伝って、一層劇画風に見えたのかもしれませんが、旺盛な創作意欲が私にも何らか力を与えてくれるようにも思えました。私も陶彫制作を頑張るぞと改めて決意し、西福寺開山堂を出ました。こんな芸術的な意欲を高める作品との遭遇があったことを幸運に思います。「越後のミケランジェロ」は本家イタリアのミケランジェロより、私にとってさらに身近な存在でした。彫工石川雲蝶は、酒や博打に明け暮れた破天荒な生き方もしましたが、豪快な仕事も残してくれたのが幸いでした。
2019.08.05 Monday
先日、夏季休暇を取って訪れた新潟県魚沼市。そこで目にした「越後のミケランジェロ」と称される江戸時代の彫工石川雲蝶の傑作の数々に、私は心を奪われました。とりわけ永林寺と西福寺開山堂に残されている木彫の超絶技巧とその迫力には、ただただ感服するばかりでした。石川雲蝶とはどんな人物だったのか、酒と博打に関するエピソードが残されている一方、職人気質の塊だった仕事ぶりに私も気持ちが奮い立ちました。永林寺で購入した書籍に次の文章がありました。「爾来、十三年間永林寺に留まった安兵衛(雲蝶)は、酒と博打にその大半を費やしたが、一たび筆を採り、ノミと刀を手にすると寝食を忘れて仕事に打ち込んだ。江戸で一度、越後三条でも一度結婚していたが、魚沼ではついぞ妻子の話を口にした事がない。弁成和尚も、ことさら身の上のことは触れなかった。また、安兵衛は弟子を育てることに執着がない。二人の男が、安兵衛のもとに弟子入りらしい真似事をした時期もあるにはあったが、安兵衛はただの一度も情を示したことはなかった。世事世情の絡みや仕来りに、安兵衛は殆んど冷淡と思える身勝手さを通し続けた。春風に流れる雲のように、江戸から越後へ漂い、自からの運命さえも意識することなく、狂気に動かされて彫り続けた作品が、根小屋の永林寺にこの男の生涯を今も物語っている。」(鹿毛直歩著)これは幸福な人生だったのか、彫工として由緒ある寺での仕事を与えられ、現在も市の指定文化財として大切に保存されている作品群を見ていると、羨ましさを感じるのは私だけでしょうか。永林寺では雲蝶の彫った天女が有名ですが、空を舞う姿(飛天)で表されていて、妖麗な素肌を顕して楽器を奏でていました。また天女の背中が見られるのも妙に生々しい印象がありました。天女に近い表現として迦陵頻伽が彫られていて、これは上半身には翼があり、下半身は鳥の姿でした。迦陵頻伽は極楽浄土を表す想像上の生物とされ、雲蝶が単なる彫工の達人でなく、仏教美術を熟知していたことが分かります。雲蝶の作品については西福寺開山堂に残された木彫を中心に、改めて稿を起こそうと思います。
2019.08.04 Sunday
毎年この時期、空調のない工房は大変な暑さの中での作業を強いられます。大学生の頃から私は彫刻科のアトリエにおいて、厳しい環境の中で制作をしてきました。素材によっては野外だったり、工場のような広い空間だったりして、これは仕方がないようなところもあって、数十年の間に過酷な条件に身体が慣れてきたと言ってもよいと思います。身体が丈夫な者が彫刻家として生き残れるのかなぁと思ってしまうのですが、確かに周囲を見渡しても師匠や先輩諸氏は屈強な人が多いかもしれません。私は自分ではそんなに頑丈な人間ではないと思っていますが、30代から40代にかけて借りていた作業場でも、現在と似たような環境であったことを鑑みると、病気もせずにやってこられたことは、丈夫な自分に産んでくれた親のおかげなのだろうと思うようになりました。慣れのせいか酷暑の中での作業は結構進みます。額に汗して陶土と格闘していると、再びやってきた例年の感じに妙な安心が得られるのです。ただし、作業が一段落した後の疲労度が昔と違います。これは加齢のせいなのか、昔のように根性論で語れないものがあって、ちょっぴり寂しくなります。とくに工房から自宅に帰ってから疲労が顕著に出てしまいます。胃腸の具合が悪くなったりすると、少し前まではそうではなかったなぁと思っています。体力維持のために昼ごろは近隣のスポーツ施設に行って水泳をしてきました。水泳をすると身体がどのくらい疲れているのかが分かります。自分の意識と体調はやや異なるのが不思議なところです。今日はそれほど疲れた感じはなかったのですが、水泳の後で工房に篭って、精一杯彫り込み加飾やタタラを掌で叩いて数点準備したのが身体に応えたみたいです。工房には最近若いスタッフが来ています。今日は女子が2人いました。若返りがあって今は10代の子たちがいますが、私は彼女たちの熱中症を心配していました。私は数十年こんな環境で制作をしていますが、彼女たちは普段は空調の効いたところで制作していると思われるからで、工房の暑さは相当身体に応えているのではないかと察しています。夕方それぞれの家の近くまで車で送っていきました。
2019.08.03 Saturday
昨日から私の職種である市公務員管理職は、市外のホテルで宿泊しながら研修を積んでいました。昨日は「Society5.0」と題して、ICTがこれからの世代にどのように関わってくるのか、私たちはそれにどう対処すべきか、横浜国大教授による講演を聞きました。その後、小グループに分かれて現状の課題を話し合うワークショップを行いました。夜は懇親を深める会が催され、毎年のことながら今回も密度の濃い研修だったなぁと感じております。ホテルで朝食を済ませた後、自宅に戻ってきました。ちょうど気温が高くなっていた昼頃に工房に出かけました。先週末にタタラを準備していましたが、高温のため少し硬くなっていて、それでも何とか成形することが出来ました。彫り込み加飾をするために水を含ませた布を巻いてビニールをかけました。明日には表面が軟らかくなっていることを期待しています。陶彫成形には夏の温度を考える必要がありそうです。空調のない工房の暑さは半端なものではありません。2時間程度作業をしたらシャツは汗でびっしょりになりました。もう少し作業を続けたいと思っていたのですが、身体がまだ暑さに慣れていないため、早めに作業を切り上げました。夕方は職場のある地域に出かけて、祭礼の挨拶をしてきました。明日の作業をどのくらい続けられるか、明日は若いスタッフたちが来るので相談しながらやっていきたいと思います。
2019.08.02 Friday
今月、職場では休庁期間を設定し、夏季休暇を取り易い状況を作っています。私も例外ではなく、今月は旅行も創作活動も共に邁進させていきたいと願っています。まず陶彫制作ですが、全体の計画として屏風の形式を採用します。そこに半立体の陶彫部品を接合していきますが、屏風の前にも陶彫部品が迫り出してきて、作品は床置きになっていきます。今回のイメージは屏風と床を使い、蒲鉾状の陶彫部品が長く連結していくものです。先月発表した「発掘~双景~」で指摘された動的な生命体をさらに発展させて、廃墟に陶彫が蛇のように蔓延る世界です。あまり情緒に流れすぎないように基本となる造形をきちんと踏まえた構築物を作ろうとしています。今月は屏風になる厚板を準備して、全体構想をまとめます。これはまとまった時間がないと捉えが難しいので、休庁期間をこれに当てます。石川雲蝶の複雑に絡まった天井浮き彫りとは表現が異なりますが、あのパワーに少しでも近づけたいと憧れているのです。陶彫部品は全体の要になるものを作ってみようと思っています。やや小さめのテーブル彫刻も準備します。これは今月はまだ手を出しません。陶紋もまだこれからです。RECORDは、自ら決めた通り今月も一日1点ずつ作っていきますが、過去の下書きの仕上げを併行して続けます。何とか下書きの山積みを解消したいと願っていて、これは夜の食卓で頑張るしかありません。鑑賞は美術館や博物館に積極的に足を運ぼうと思っています。観たい映画もあるので、これは大いに楽しもうと思います。夏季休暇での旅行は、ありきたりですが関西に行く予定です。家内の希望は姫路城、私は相変わらず関西方面の美術館です。往復の東海道新幹線の乗車券を手に入れました。読書は何を読もうか思案中で、書棚に未読の書籍が並んでいます。難解な哲学書もありますが、気分としては緩い書籍に手がいきそうです。今月も暑さに負けないように適度に頑張っていこうと思っています。