2014.08.11 Monday
今日はカンボジアから東京に帰る日です。シェリムアップからベトナムのホーチミン空港を経て成田へ帰ります。アンコール遺跡群を訪ねて、自分の創作イメージに与える影響は計り知れないものがありましたが、カンボジアの社会はまだまだ発展途上で、自分が幼い頃の日本を見ているような錯覚を持ちました。チャーターしたマイクロバスの車窓から見える人々の暮らしに貧しさと共に生きる逞しさを感じましたが、その一方で痩せこけた牛を使って稲を植える家族、露天で土産を売る子供たち、市場で恵みを欲しがる母と幼子などが眼に焼きつきました。日本や他国の援助で作られた施設や産業への指導、また現在の建物ラッシュにこれからのカンボジアの活路を見る思いもしました。遺跡に関して言えば、ポルポト政権時の影響で修復が中断し、再開するにしては当時の資料がなくなっていて遅々として進まない現状も見ました。遺跡の周辺に置かれた番号付きの原石の量は夥しく、これをパズルのように組み立てるには大変な労力を要すること、日本製の重機が活躍していることも印象に残りました。伝統工芸学校は観光用になっていましたが、木彫や石彫の工房では職人たちが鑿や鏨を使ってコツコツと作業に勤しんでいました。土産用の仏像や浮き彫りを彫る姿が、自分の陶彫制作の姿とも重なって良い刺激をもらいました。それにしても今回は雨季とは言え、遺跡巡り全体を通して天候に恵まれ、猛暑の中を歩き回りました。アンコール遺跡群の観光は、場所によっては足場の悪い所や危険な所も多く、足腰の丈夫なうちに限ると思いました。このNOTE(ブログ)を読まれている方で、アンコール遺跡群に興味があれば、元気なうちに行くことをお勧めします。
2014.08.10 Sunday
アンコール遺跡群の中で自分が一番見たい寺院は、今日訪れたタ・ブロム寺院でした。大きな樹木に覆われた寺院で、その根が建造物に絡まり、人工と自然が織り成す独特の景観を見てみたかったのです。タ・ブロム寺院は想像通りの悠久の時を刻んだ遺跡で、スポアンという巨大な樹木が根を張って遺跡全体を覆っていました。一幅の絵画を見ているようで、観光スポットとしては人気がある所でした。寺院は般若波羅蜜多像を祀ったもので、修復は最小限にしてあるようです。ガジュマルの近縁種が網の目状に遺跡を覆っている箇所もありました。まさに創造意欲を掻き立てられる景観で、長く滞在してスケッチしたいと思いました。次に訪れたタ・ケウは碧玉の塔という意味を持つ遺跡で、装飾がなく大きな石材が積み上げられたままの景観でした。上に昇る階段の段差が大きく急勾配でしたが、登山の好きな自分は家内を残して登ってみることにしました。頂上からの眺めはたいしたことはなかったものの、密林の中に佇む寺院を満喫しました。最後に訪れたスラ・スランは王や高僧が沐浴するために作らせた池で、現在は市民の憩いの場所になっているようです。空港に向かう前に現地ガイドの提案でオールドマーケット散策と伝統工芸学校見学がありました。土産購入の算段であったらしく、いろいろな店に連れていかれましたが、なかなかそこでお金を使うこと出来ず、職場の人たちに僅かな土産を購入したに過ぎません。今回のアンコール遺跡周遊では、創作的な趣向の他にさまざまな情報が入ってきました。遺跡修復がなかなか進まない理由やカンボジアの社会全体に関わる諸問題など考え始めたら収拾がつかなくなります。改めて社会問題で感じたことは書こうと思います。
2014.08.09 Saturday
今日は内容の濃い一日になりました。現地ガイドの機転で観光客で混む前の城壁都市アンコール・トムを見学することになり、朝8時にはホテルを出ました。アンコール・トムとは大きな都という意味で南大門、北門、勝利の門、死者の門、西門に囲まれて、中央にはバイヨン寺院が位置しています。南大門に到着したときに眼についたのは観光用移動手段の象でした。南大門に架かる橋には野猿がいました。ここの建造物には四方に尊顔が彫り込まれていることが特徴で、中央にあるバイヨン寺院には16体ある塔堂のうちのひとつにクメールの微笑と称する尊顔があり、多くの観光客が写真を撮っていました。尊顔にはデーヴァ型である男性、デヴァダー型である女性、アスラ型である悪魔があるようで、注意深く見ていくと楽しめると思いました。バイヨン寺院で印象的だったのは、回廊一面に広がる浮き彫りの見事さでした。これは庶民の生活を表現したものだそうで、戦争を初め日常生活に関することを一つひとつ見ていくと幾ら時間があっても足りません。魚や動物、樹木の象徴化が面白くて、創作欲が刺激されました。その後はバプーオン、ピミアナカス、ライ王のテラス、象のテラスを見て回りました。バプーオンはシバを祀る寺院、ピミアナカスは三層ピラミット型寺院、ライ王のテラスではライ病患者であった王に纏わるもので、とくに印象的だったのは曲がりくねった二重の壁にびっしり浮き彫りされた神々でした。ホテルのあるシェリムアップに戻って飲茶で昼食をとり、午後は水上生活を見にトンレサップ湖に出かけました。トンレサップ湖は琵琶湖の16倍で瓢箪型をしていて、クメール語で淡水湖と川という意味だそうです。雨季と乾季で水位が違い、ベトナム付近のメコン川からの逆流もあるようです。水上に浮かぶ家々は町を形作り、小学校やデパートもありました。午後3時になって漸く世界遺産のアンコールワットに出かけました。昨日は夜明け前に見ていたアンコールワットでしたが、内部に入ると浮き彫りの細かさ、雄大さに眼を奪われました。バイヨン寺院の浮き彫りと異なるのはアンコールワットは全て神話がテーマになっているところです。多くのデヴァダー(女神)にも出会いました。浮き彫りが光っていた箇所は拓本にとられ、土産品として大量に売られたのだそうで、知り合いもそんな土産品を持っていたなぁと思い出しました。アンコールワットを堪能した後、ココナッツ椰子に穴を空けてストローを挿した生ジュースを飲みました。生水が飲めないカンボジアでとても潤ったひと時でした。伝統芸能の影絵を見ながら夕食をとりました。コメディだったのに言葉がわからず笑うことが出来ませんでした。夜はナイトバザールに繰り出しました。値切る面白さを堪能しながら過ごしました。影絵に使う原型を家内が粘りに粘って半分近くまで値切ったのが収穫でした。
2014.08.08 Friday
アンコール遺跡群に近いシェムリアップのホテルに宿泊し、カンボジア人の現地ガイドに遺跡見学の案内をお願いしました。現地ガイドの提案でアンコールワットに昇る朝日を見ることにしました。早朝5時にホテルを出発、夜明け前のアンコールワットに到着しました。正面から眺めるアンコールワットのシルエット、遺跡の後方から後光が射すように昇る太陽に暫し見とれてしまいました。遺跡は自分が思っていたより巨大でした。朝は神秘的な空気が漂い、やがて日差しが苔むして黒くなった砂岩を浮かび上がらせました。ホテルに戻って朝食を済ませた後、クメール王朝最古のロリュオス遺跡群の見学に出かけました。カンボジアは雨季を迎えていますが、今日は夏雲が広がる晴天になり、強い日差しの中をバコン、プリアコー、ロレイの3箇所の遺跡を見て回りました。9世紀から10世紀に建ったもので、レンガ作りの祠堂は崩れかけ、修復には相当な時間がかかりそうだと実感しました。参堂にはナーガという複数の頭を持つ蛇をモチーフにした石の欄干がありました。祠堂の前にはシンハという石作りの獅子を模した守護神がいましたが、いずれも欠損していました。バコンはピラミット型寺院としては最古だそうです。またプリヤコーでは蛇を食う半人半鳥のガルーダや門衛神ドヴァラパーラの浮き彫りが印象的でした。昼食はクメール料理を味わい、午後からはバンテアイクデイ、東メボン、ブラサートクラヴァンを見て回りました。バンテアイクデイは小部屋(僧房)のある砦を意味するそうです。上智大学遺跡調査団が入っていて紹介看板がありました。女神を意味するデヴァダーの浮き彫りが印象的で、観光ガイドに東洋のモナリザという異名の掲載がありました。夕方になってプレループ遺跡に登りました。ここは夕日鑑賞が定番だそうで、多くの観光客が日が暮れるのを遺跡の頂上で待っていました。太陽が西に沈む頃まで頂上で過ごし、夜になってシェムリアップに戻ってきました。夕食は宮廷舞踊を見ながら味い、盛りだくさんのプログラムを無我夢中で走りぬけた感覚を持ちました。
2014.08.07 Thursday
今日は早朝4時にNOTE(ブログ)にアップします。今日から夏季休暇を取ります。カンボジアのアンコール遺跡を訪ねます。昨年は長崎県の軍艦島、今年はアンコール遺跡群、というように最近は自作のイメージに繋がるような鑑賞スポットを選んでいます。陶彫による集合彫刻を作っている自分は、焼成によって錆鉄のような重厚な素材感が現れてくるのを楽しんでいます。出土品のようだと評論家に指摘されることもあります。そこに住居を感じ取っていただく鑑賞者もいます。自分のねらいとするところは遺跡や残骸の持つ空虚さや、それでもなお存在する物質の空気感を表現したいことです。それは現実に存在する都市の残骸や遺跡の場所を訪ねることによって自己表現への確認に繋がります。実際にこの眼で見る遺跡は、自分の表現など吹き飛んでしまいそうな存在感を示しますが、高温焼成された自作の陶彫もまた未来永劫残っていくものと信じ、現在の時代を遺跡化するとなれば、どんなものになるだろうという自分の内面を見つめることにしています。欠損した都市の思いがけない空間、人々がそこに生きた証、幾星霜が過ぎ、風化し地球の一部となった素材等々、遺跡にはコトバにできないものが眠っているように思えます。ともあれ今日から来週月曜日までの旅程でアンコール遺跡群を見てきます。